‡CRYSTAL‡ 賊の嵐 “空賊” 一番嫌いなその単語を耳にしたセーマは、眉間に皺を寄せた。 とてつもなく不快な表情でダイスに聞き返す。 「…テンペスト?」 「ああ、うちの局にも手配書が回ってきてるんだ。 少人数グループだけど、リーダーが相当キレるらしくて、被害総額も多い。 それに――…」 一瞬口ごもったダイスは、銀髪の歌姫を見た。 歌姫はセーマとダイスを交互に見遣り、警戒している。 ダイスはそんな彼女に目を向けながら、口を開いた。 「彼らのメンバーの中には…『憂歌』を習得した者がいるって噂を耳にしたよ」 ――憂歌(うか)とは、オルガを操る事のできる古の秘術。 大昔に起きた天地戦争で、オルガの軍を率いた天上ヴァリアスは憂歌でオルガを操り、暴走させ、地上エクセニアを崩壊寸前まで追い詰めたという。 地上エクセニアには存在する筈のない秘術を、目の前の歌姫は習得していた。 「さっきの歌……あれが憂歌、だね」 「…詳しいのね、保安官さん」 ダイスは徐々に歌姫との間合いを縮めていく。 彼女の手には、消えたオルガの核が握られていた。 「どう?それをこっちへ返せば、見逃してやらない事もないけど」 そう言って差し出された掌を見て、歌姫はきつくダイスを睨んだ。 するとセーマが横から口を挟む。 「賊をそんな簡単に逃がしていいわけ?」 「僕の任務はその核の回収だからね。他の仕事する気、ないし」 相変わらず読めない笑みを浮かべてダイスは答えた。 すると突然、歌姫が何かに反応し顔を上げる。 ――ピーーッ 『今そっちへ向かってる。核は手に入ったか?』 「…ええ、順調よ」 小型通信機を装着しているのだろうか。 彼女が今の不利な状況を“順調”だと述べるのをセーマとダイスは首を傾げながら聞いていた。 . [前へ][次へ] [戻る] |