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‡CRYSTAL‡
小さな、可哀相な狐





――初めてあの指輪を見た時、驚いた。


世界でも一握りしか採取できねぇ魔石を、なんでこんなチビ狐が持ってやがったのか。


どうせこの怪我じゃ、永くは行き延びられねぇ。

死んだ後にでも頂戴しようと思っていた。




――…だがこのガキは、必死で嵐の荒波に抗って生き延びた。

この金色の瞳は、物凄い覇気を持っていた。


死にたくない。

生きたい。

強くなりたい。

仇を、殺したい。



そんな気迫がすげぇ伝わって来たんだ。




俺の人生の半分も生きてねぇようなガキが、どうしてこんな瞳をしてるんだ?

少なからず“驚異”を覚えた。



故郷を無くして。
家族を亡くして。

不幸で可哀相な子狐。


なるべくなら、このガキには平穏に生きて欲しいと思った。


せっかく拾った命を、わざわざ捨てるような真似をしてほしくなかったんだ。


セーマは頭もキレるし、手先も器用だ。

俺の後継ぎにでもしたかったんだがなぁ…。






だがこのガキは仇討ちに行くって聞かねぇ。

口が達者で生意気で。

物覚えもよくて、ハンターとしての素質も充分にあった。



それでもセーマは、更なる高みを求めていた。

だから、わざと魔石の情報を教えたんだ。

当然あいつは食いついた。


提示額として、5億の大金をせしめると、金を稼ぐ為にあいつは旅立った。


それが、俺の狙いだった。




広い世界を見て、友達とか作ってよ。

仇討ちなんて馬鹿な事を諦めてくれりゃ、それでよかった。






5年振りに帰ってきたあいつは、変わった。

いっちょ前にでかくなって、可愛い女の子まで連れてきやがって…。



だけど、一番変わってほしかった事は変わらなかった。

結局それが、あいつの中の不変の信念だったんだろうな。





ま…こんな事、


口が裂けてもあいつにゃ言えねぇけどな――…




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