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‡CRYSTAL‡
ノン・ストップ・ティア






…――、―――…





「っ…なんだ?」

「…例の装置を作動させたようだね。
作戦は着実に進んでいる」



塔の最上部から聞こえる彼女の憂歌にから、強い感情の高まりをセーマは感じ取っていた。

嫌な予感がしてならない。


――キィンッ!!


階段に向かって走り出そうとするセーマの足元を目掛けて、ダイスは素早く発砲した。



「邪魔するな!!ダイスッ!!」

「それはこちらの台詞だよ。オルガを鎮められる壮大な計画を…どうして君は止めようとするんだ?」



壁際に身を潜めたセーマの気配を悟り、ダイスは未だ銃口を向けたまま話し続ける。



「…僕とミラの両親はオルガに殺された。
聞けばテンペストの団員も、オルガに故郷を潰されたり、身内を殺されたりしたそうじゃないか」


銃を持つダイスの手が小刻みに震え、強く歯を食い縛った。



「オルガさえいなければ…世界は平和になるんだ!!
オルガさえいなければ、この先に起こりうる悲劇を防ぐ事ができるんだ!!」


ダイスの瞳が涙で潤む。


本当は、首都を巻き込むこの作戦に反対だった。

けれどもし、この場を切り抜けられれば…

フォーレに住む妹に、危害が及ぶ心配がなくなる。



――人は、平和を手にする事になる。








「あんたは、どうしようもない馬鹿だ」



その瞬間。





――…ザッ!!!!



壁際に身を潜めていたセーマは、全力疾走で向かって行った。

それに気付いたダイスは慌てて引き金を弾こうとするが、彼のスピードには追い付かなかった。


懐に、飛び込まれた。




――ザァァッ!!!!



セーマはダイスの胸倉に掴み掛かり、その場に押し倒す。

その拍子に彼の手から離れた短銃が、勢い良く床に転がっていった。



「…その“世界平和”の為に、訳の分からない計画の為に。
あいつは…ティナは望まない殺戮をしてるんだっ!!!」


目の前で怒りの焔を灯す金の双眸に、ダイスは身震いした。



「確かにあんたの言う通り、オルガがいなくなれば悲しむ人は減るさ…!
でもだからって、他の誰かを犠牲にして手に入れた平和は、本当にあんたが望んだものなのかっ!!?」



ダイスの胸倉を掴むセーマの手が、より一層強くなる。



――痛い。


その強い手で、心臓を掴まれているようにさえダイスは感じた。



「あんたは世界中の人間の哀しみを全部ティナに背負わせる気か!?
答えろダイスッ!!!」



その気迫に、言葉を失っていた。


このだらしなく開いた口からは、嗚咽しか出ない。





やがて、セーマはゆっくりとダイスの上から退いた。

押さえ付けるものが無くなっても、ダイスはまだ床に倒れたまま蹲っている。


そんな彼を一瞥しながら、セーマは口を開いた。



「もし本当に…あんた達がティナの命を犠牲にするつもりなら」




落ち着いた声。

けれど、氷のように冷たい声だ。




「今度は俺が災厄になって…――こんな世界、跡形もなく消してやる」




そう言い放つと、セーマは最上階に向けて再び走り出した。






残されたダイスは、倒れたまま目元を押さえる。

小刻みに肩が震えた。



「だって…仕方ないだろ」


堪え切れない涙に、歯痒さを感じる。


無力な自分が、とても腹立たしいと思った。





「…誰かの所為にでもしなきゃ、いつまでたっても涙が止まらないんだ――…」





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あきゅろす。
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