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‡CRYSTAL‡
繋がれた先に




薄暗い城の廊下を、セーマは自慢の脚力で全力疾走していた。

外は暗く、地を叩きつける雨音と雷鳴が煩わしい。


神経を集中させ、微かに聞こえる歌を探す。

そんな彼の心中は、苛立ちで一杯だった。




――冗談じゃない。

憂歌を使えるのは、この世界で彼女のみ。

そしてあの胡散臭い博士や、ギースとかいう奴が黒幕なのは間違いない。



彼女に憂歌を使わせているのも、恐らく――…




「何考えてるのか知らないけど…」



“彼女に人殺しのような真似をさせるのだけは、絶対に許さない”


この激情の名前を、セーマはまだ知らなかった。





―――――――――
――――――




「素晴らしい力デスね…。
これだけのオルガを、いとも容易く操れるなんて」

「まだ気を抜くな。
機械の調整に専念しろ」

「はいはい」



とある塔の最上階。

巨大な精密機械を動かしているのはウォンだった。


暫く眼下の景色に驚嘆していたが、ギースに言われ仕方なく調整を続ける。



「いよいよだ…。我らの長年の研究が、報われる瞬間がやってくる」


ギースは静かに、機械に視線を向けた。



そこには、夥しい数の管を身体に繋がれたティナの姿。

白い医療着に身を包み、機械に設置された台に横たわりながら、憂歌を口ずさみ続けている。

目元にはマスクのような機械を装着され、幾つものコードに繋がれていた。



昏睡状態。

彼女に意識は無かった。





「どうやら、ネズミが紛れ込んでいるようだ」


ふと、ギースが声を漏らした。


塔の窓から見えるのは、こちらに向かってくる『漆黒の狐』。



「だから言ったデショ?
彼は曲者だって」

「今、奴に邪魔をされる訳にはいかない。
…足止めをしなければな」


ギースがクッと小さく笑うと、部屋の陰からウォン以外の何者かが現れた。

その人物は、言葉を発することなく部屋を後にする。


まるで、言われなくとも自分のすべき事を了承しているように。




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