[携帯モード] [URL送信]

‡CRYSTAL‡
重なるひと




その時、不意にセーマは皇帝の前に歩み寄った。

突然の行動に警戒した兵士達は思わず皇帝の傍で身構え、槍の矛先を彼に向ける。


それでもセーマは臆する事なく、鋭い金色の瞳で目の前の王を見据えた。



「…ここは、あんたが治める国だろ」

「き、貴様口を慎め!!!」


王に対して余りに無礼な物言いに、兵士はセーマに怒声を浴びせた。

それでも彼の瞳には、皇帝の姿しか映っていない。


その鋭い眼光を前に、皇帝も動揺を隠せなかった。




「あんたの国で起こってる事、あんたが知らなくてどうすんの」


『貴方の国の現状を、貴方自身が知らなくてどうするのですか』


凛々しく前を見据えるセーマの姿が、一瞬誰かと重なった。

夜の様な漆黒の髪に、金色の瞳を持つ“女性”と。




「『国を幸せにしたいなら、まず自分の目で国を見なよ。――皇帝さん』」



皇帝は息を呑んだ。

放たれた言葉は、かつて“彼女”が口にしたもの。


若かった頃の自分を戒めた言葉。

なぜ、この青年が――…




「陛下に何たる暴言!!
今すぐこの者を捕らえよ!!」



側近の大臣がそう言い放った瞬間、兵士達はセーマに襲い掛かかった。


「おい!セーマ!!」


さすがのセーマも、武器無しで兵士に敵う筈がない。
ロゼは慌ててセーマの元へ駆け寄った。




「その者に…触れるな」



制止したのは、低い声。

玉座に佇む皇帝のものだった。


「し、しかし陛下…っ」

「私の命令が聞けぬのか」

低く静かに響く声。

皇帝は俯いたまま、荒ぶる兵士達を下がらせた。



セーマは動じる事なく皇帝を見つめる。

すると皇帝は意を決したように玉座から立ち上がり、セーマとロゼを見下ろした。



「…直ちに空賊テンペストを釈放する。
暫く首都に滞在しなさい。
…歌姫の件については追って連絡しよう」

「陛下…」

「ウォンに掛け合ってみよう。行動しなくては、始まらないからな」


最後の言葉はセーマに向けて言い放たれたもの。

ふ、とセーマは不敵な笑みを見せた。



.

[前へ][次へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!