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‡CRYSTAL‡
見渡す景色





――ガタンっ!


するとその時、今まで黙ってソファーに座っていたセーマが、腰を上げた。

そのまま部屋のドアまで、平然と歩いて行くのを、ロゼ達は唖然と見ている。


「おい、セーマ…どうしたんだ?」

「ちょっと外の空気吸いに行ってくる。
局から出なきゃ、どこ行ったっていいんでしょ」


驚く程、落ち着いた声。

彼らに顔を背けたまま、セーマは静かに部屋を出て行った。


不自然に落ち着いた彼の後ろ姿を見つめたまま、残された全員は顔を見合わせる。


「どうしたんすかね、セーマさん…」

「…そうか」


首を傾げる三人に対し、ロゼは一人納得したように俯く。



「落ち着かないんだろ。
首都は…あいつの故郷の近くだからな」





――――――




セーマは保安局の廊下を一人歩きながら、擦れ違う保安官達から好奇の瞳を向けられていた。

今、彼は重要参考人として局にいる為、下手に動かなければ、保安官もこちらに手出しはしない。


そうして階段を昇り、歩いていった先は最上階。

その廊下の端まで来て、セーマは立ち止まった。


ちょうど南東向きの窓から外を覗く。

真昼の空は青く広がり、白い雲が太陽の光に反射し、セーマの姿を照らした。

眼下には、首都ならではの町並みが広がる。

人や建物が、大きく凝縮されたような景色。


セーマはそんな風景に目を細めながらも、遥か遠く、海の向こうに鋭い視線を向けた。


彼が見つめているのは遥か遠く、海を隔てた向こうの大陸。

輝く結晶に包まれた、今は亡きセーマの故郷。



「クロエ…」


5年ぶりに見た島は、彼の思い出の姿とは全く違ったものだった。

青々と茂った植物も。
暖かい茶色の土も。

全てが水晶と化していた。


だが、不思議と穏やかな気持ちになった。

その景色は、彼の悩み苦しむ日々を少しの間だけ忘れさせてくれた。

儚く銀色に光る水晶は、まるで“彼女”のよう。



「…ティナ」


最後に見た彼女は、自分のせいで泣いていた。

その表情が、今も消えずにセーマの脳裏を駆け巡る。


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あきゅろす。
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