‡CRYSTAL‡ 溢れる月の涙 セーマはおもむろに、自身の指からリングを引き抜いた。 それは、いつか母の形見だと言っていた指輪。 彼はティナの左手を取ると、その白い薬指にそっとはめた。 「御守りだよ。ティナが自分らしくいられるように」 「…セーマ…」 近くでよく見ると、シルバーリングには小さな石が象られていた。 虹色の輝きを放つ、見た事もない美しい宝石。 その指輪を着けた手を強く握りながら、ティナは顔を俯かせてしまった。 さら、と流れる銀の髪から覗く細い肩が、小刻みに震えているのが分かる。 その姿は、必死に何かを堪えているようで――。 「ったく…。我慢すんなって言ったばっかじゃん」 セーマは大きな大きな溜息をつくと、その華奢な肩を片手で強引に抱き寄せた。 腕の中に収まる彼女にだけ聞こえるように、小さく囁く。 「…泣けば」 ――セーマに涙を見せたのは、これが2回目。 もうこの人の前では泣きません、って誓ったのに。 彼に泣けと言われたら、自然と涙が溢れてしまった。 あんなに鋭い言葉を浴びせられて、 胸が切り裂かれるように痛かったのに…。 今は、私の肩を抱く腕が、暖かくて。 私に囁く声が優しくて――… きっともう、この人の前でしか泣けないと感じたの。 . [前へ][次へ] [戻る] |