[通常モード] [URL送信]

‡CRYSTAL‡
歌姫エミリー







『今回は、素晴らしき声を持つ歌姫を御呼び立てしました!』




その声と同時に、パッと会場の中央に明かりが灯る。
そこには一人の女性が立っていた。

女性は黒いドレスに纏い、美しい装飾品を身につけていた。

それだけなら他の招待客と変わらぬ装いなのだが、彼女は違ったものを身につけている。




それは目元のみを隠す、金色の仮面。


口元に笑みを見せるその女性は、どこか妖艶な雰囲気を漂わせている。




『ご紹介しましょう!
天性の歌姫エミリー!!』



その声と共に、大きな拍手が沸き起こった。





「…ねぇダイス。余興が始まった今がチャンスなんじゃないの?」

「まだだよ、もう少し」



未だ動こうとしない依頼人に、セーマは拍手に紛れて小さく舌打ちをした。

すると、エミリーと呼ばれた歌姫は静かに音を奏で始める。









 始まりの謡(ウタ)が
 聞こえますか?


 始まりの華火が
 見えますか?


 貴方との出会いを
 至福の奇跡と感じて


 出来る事なら
 もう一度だけ…










美しい旋律の鎮魂歌。

聞いた事のないその不思議な歌声のする方に、セーマは自然と目を向けた。


会場に響くのは、歌姫の声のみ。








 草木の芽吹きを
 感じますか?

 気高い誇りに
 触れていますか?



 禁断の時を越えて
 もう一度会えたなら


 この地で巡り会えた
 貴方だけの為に



 どうか どうか
 歌わせて下さい






セーマを含めた会場にいた人々は皆、歌姫エミリーの声に魅了されていた。


聴いていると、胸の奥から何かが沸き上がってくる。

そんな歌だった。




そして彼女の透き通った声が心に染み渡り、無性に何かを訴えているようにさえ感じる。






「…何だろ、この感じ」




セーマは、自分にしか聞こえない声でそう呟いた。



.

[前へ][次へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!