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‡CRYSTAL‡
捨てられた少女







――ザアアァァ…





雨が降りしきる中、セーマはサリファの街を走る。

まだ夜が明けたばかりのこの時刻に、外を出歩く人は殆どいなかった。




「っ…ティナ!!」



探し人の名前を呟き、セーマは街を走る。

水溜まりに足が浸かり、激しく雨水が跳ねた。









――…っ




その時、近くで誰かの啜り泣く声が聞こえ、セーマは立ち止まる。

狭い路地裏の方から聞こえるその声を頼りに、セーマは走った。




「…ひっ…く…っ」



そこには雨に濡れ、膝を抱えて顔を伏せるティナの姿があった。




「ティナ…」



小さく肩を震わせながら、必死で泣き声を噛み殺している。

セーマは肩で息をしながら、彼女にゆっくりと歩み寄った。

ぱしゃ、と跳ねた水音に、ティナはハッと顔を上げる。


いつもと違う、哀しそうな表情で自分を見下ろすセーマに、ティナは首を横に振った。



「い、や…来ないで…っ」

「無くした記憶を思い出したの…?」



恐怖の色に染まった瞳を見ながら、セーマは彼女の前に跪いた。

そして自分の上着を脱ぎ、震える彼女の肩に掛ける。


するとその瞬間、ティナは彼の腕を強く掴んだ。





「…こんなの、思い出したくなかった…っ」

「だけど、これが現実なんだ」



セーマは冷静だった。

下手に慰めたり同情しても、きっと彼女は泣き止まない。



「記憶を取り戻したかったんでしょ?
だったら、それなりの覚悟が出来ていた筈だ」

「ちが…辛いのは、そんな事じゃない…っ」



ティナは首を横に振る。

何に対しての否定なのか、分からない。



「路頭に迷っていた私を…ロゼは保護してくれた。
空賊として色んな所を飛び回って、色んなこと、私に教えてくれた。
記憶のない私のこと、家族だって言ってくれたの…。ほんとうに…っ感謝してたのに!!」











――ロゼの大切なひと。





優しいニーナ。





私が、殺したようなもの。











「…ねぇ、セーマ。
私また、ロゼに捨てられちゃうのかな…?」



そう言葉にした瞬間、セーマはティナの頬に触れた。

雨のせいか、涙のせいか。
雫の痕が沢山の残っている濡れた頬。

そこに、唇を寄せる。



「セー、マ…っ!」



セーマは優しく、雫を拭うように頬を舐めた。

慰めるように、何度も。






「…あんたは、自分の気持ちをロゼに伝えるべきだ」




捨てられた悲しみより、拾われた喜びの方が何倍も大きいって事を。





「まだ、いたいんでしょ?
大事な仲間のいる…『空賊テンペスト』に」





それがあんたにとって、掛け替えのない居場所なら…






「――うん…っ」





掴んで、離すな。





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