‡CRYSTAL‡ 雨の葬儀 機嫌が悪そうに前髪を掻き分け、セーマは未だ俯くロゼの背中に問い掛けた。 「ねぇ、あんた一体ティナに何したわけ?」 その口調は興味本位にしか聞こえず、ダイスは声を荒げる。 「セーマ君!君に関係な」 「――…たんだよ」 ダイスが言い終わらないうちに、ロゼが小さく呟いた。 肩を震わせて拳を強く強く握る。 いつも天真爛漫な彼だが、今だけはその背中がとても小さく見えた。 やがて、か細い声を発する。 「――ティナ連れて逃げた後も…頭ん中ぐちゃぐちゃで、本当に……どうしたらいいのか分からなかった」 首都がオルガに襲われた混乱の中、ティナを連れて逃げた。 どこでもよかった。 “ニーナの死”という現実から、目を背けたかった。 数日間、空虚な気持ちで広い首都をさ迷い歩いた。 ティナも散々泣き喚いて、そろそろ逃げることも限界だった。 そしてあの雨の日、 ふと人だかりに紛れて、ある儀式を見てしまった。 見知った警官達が、涙を流して何かを見送っている。 その中には、ダイスの姿もあった。 確信した。 これは、ニーナの葬儀だ、と―― 「…現実を突き付けられた俺には、怒りしか残っていなかったんだ…」 やがてロゼは、ゆっくりとセーマに振り向いた。 彼の頬には、沢山の涙が伝っている。 見た事のない、彼の表情にセーマも目を見開いた。 そしてロゼは、肩を震わせ掠れた声で続けた。 「俺は…その怒りの矛先をティナに向けた。…そして」 ――何も悪くない、純粋なティナを。 「雨で増水した川に…っ…突き落としたんだっ!!」 . [前へ][次へ] [戻る] |