‡CRYSTAL‡ ダイスの尋問 ふとセーマは外を見た。 独房の小さな窓から見える空は雨雲で覆われている。 いつもこの時間帯なら昇っている筈の月も、この天気では姿を見せてくれなかった。 視覚からも嗅覚からも、セーマの疲労感を癒してくれるものは、ない。 ――…それならば、せめて心地よい音楽でも耳にしたい。 「じゃあさ、歌って?」 「この状況で呑気に歌なんか…」 「いい気晴らしになるかもよ。 もしロゼの所まで歌が聴こえれば、俺達の無事を伝えられるだろうし」 未だ寝そべったままのセーマの言葉に、ティナは顔を上げた。 そして何かを考え込むように口許に手を宛てる。 「そう…ね、悩んでるだけよりいいかも。 一曲だけ、いい?」 「どーぞ」 念のために許可を得てから、ティナは大きく息を吸い込んだ。 ―――――― 「綺麗な声だね」 ふと聞こえてきた歌声に耳を傾けながら、ダイスはロゼに向かい合うようにソファに腰を下ろす。 尋問室、とは言い難いほど綺麗な造りの部屋で、ロゼは座ったまま口を閉ざしていた。 だが向かいに座ったダイスに、ロゼは少し顔を上げて鋭く睨み付ける。 「…なんで俺だけこんな所に連れて来られるんだよ」 「君には聞きたい事が沢山あるんだ。それとも、牢屋が希望?」 「お前の顔見なくて済むなら、そっちの方が100倍マシだぜ…」 そう言うとロゼはそっぽを向き、跳ねた髪をがしがしと乱暴に掻いた。 . [前へ][次へ] [戻る] |