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‡CRYSTAL‡
空を舞う狐






だがその時ティナはある事に気付き、声を荒げる。



「セーマ、梯子がない!」

「そんなもん、いらない………よっ!!」





――ザッ!!




大地を蹴った狐が、青空を華麗に舞った。

尋常ではないその脚力で、二人は無事に甲板へと着地する。





「ふう…」


少し呼吸を乱しながらも、セーマは腕に抱えているティナに視線を向ける。

高い所に慣れていないのか、彼女はセーマの首に腕を回したまま、青ざめた表情をしていた。

そんな彼女に、いつもの不敵な笑みを見せる。



「ね、言ったでしょ」

「ほ…本当に、死ぬかと思った…」



セーマはゆっくりとティナを床に下ろすが、彼女はその場に力無く座り込んでしまった。


飛行船は既に発進しており、遥か遠くで蟻のように小さくなった保安官達が、悔しそうにこちらを見ている。

その時。






「よう、お疲れさん!」

「ロゼ」


ずるずるとズボンを引きずりながら歩いて来たロゼに、セーマは反応した。

呼吸を整えながら、ティナも視線を向ける。

すると彼女はロゼの姿を見るなり声を荒げた。



「ロゼ!まさか、一日中その格好だったの!?」

「ん?まぁ細かい事は気にすんな」

「細かくないっ!!」



ケラケラと笑う彼は、まさしく今朝と起床したままの恰好。

そのだらし無い姿にティナは肩を震わせ、説教を続ける。







そんな中、セーマは一人静かに眼下に広がる風景を見下ろした。


――都市リュマノ。

随分と長い間在住した、セーマの幾つ目かの故郷。
だが流れ旅をしていたセーマにとって、特に愛着などは湧かなかった。

ただ、人の多い都市は金儲けに最適だっただけ。

そう思いながら、セーマは形見の指輪をそっと指でなぞる。

そして、空を見上げた。






「――…今日も青いね」






飛行船はゆっくりとリュマノから離れていく。



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