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‡CRYSTAL‡
狐の優しさ





―――――――







「はぁっ、はぁっ!!
ちょっと…待って…っ」

「待ったら捕まるよ」



どれだけ走っただろうか。

何人もの警官を退けながらの疾走に、ティナは体力の限界を感じてきた。

セーマはそんな彼女の手を引きながら走っているが、息一つ乱していない。

後ろにはあと数人の警官。



「も、ダメ…!
この服……おもい…っ」




走りながら歌う、という困難な事をティナは重たいドレスを着ながらしていたのだ。

徐々にペースダウンを感じ、セーマは小さく舌打ちをする。



「重いんなら脱げばいい」

「…っ!?この変態狐!!」



口は動かせても、やはり彼女の足は遅くなっていく。
そんなティナに、とうとう一人の警官が手を伸ばした。




――ヒュッ!!


「うわぁあっ!!」


間一髪の所でセーマは銃を撃ち、警官を妨げる。

だがこのままでは、捕まるのは時間の問題。

ならば、するべき最善の策は一つ。





「…仕方ないな」

「え、何…っ!?」


次の瞬間。




「よっ」

「――…ひぃっ!?」


セーマはティナの体を軽々と抱き抱えた。

俗に言う“お姫様だっこ”という形で。



「や、やだやだ!降ろしてぇっ!!」

「…頼むから耳元でデカイ声出すな」


そうは言っても、こんな体制で黙っていられる程ティナは冷静ではない。
だがセーマは彼女の叫びを無視し、足に力を入れて思い切り地面を蹴った。



「は、速…っ」


彼女を腕に抱えたまま、セーマは俊敏な動きで街を駆け抜ける。
亜人特有の驚異的なスピードに、普通の警官が追いつける筈がない。



(今まで…私の速度に合わせてくれてたの?)


前を見据えるセーマの横顔を見つめながら、ティナは少しだけ彼の優しさを実感する。

そのスピードのお陰で、あっという間に飛行船の下まで辿り着いた。

船はもう離陸寸前だ。




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あきゅろす。
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