‡CRYSTAL‡ 捕まった!? 《回想終了》 「もう…ロゼはこういう時だけ張り切るんだから」 『ぶつぶつ言ってないで急ぐよ。次の角、右ね』 腕に抱えているセーマに道案内されながら、ティナはリュマノの住宅街を歩く。 颯爽と歩くその姿は、どこから見ても散歩中の貴族令嬢にしか見えない。 そうして暫く歩いていると、突然後ろから肩を叩かれた。 「失礼、そこの御婦人」 「え――…っ!!?」 後ろを振り返ったティナは、驚愕する。 声を掛けてきたのは、一人の若い保安官だ。 ティナは目を見開き、固まったまま動くことが出来ずにいた。 「失礼ですが、どちらへお出掛けですか?」 「えっ…いや、そのっ!」 笑みを浮かべる保安官に対し、ティナは正体がバレたかのか、と動揺を隠せない様子だ。 「実は昨日の事件の犯人が、まだこの街にいる可能性があります。 貴女のような御婦人が一人で歩くのは危険ですよ。 私がお送り致しましょう」 「え…で、でも」 相手が保安官という事で動揺し、上手く断りきれないティナ。 だが、冷静に見物していたセーマは直ぐに察知した。 ――爽やかな笑顔の裏の、男の本性。 これは“親切”ではない。 ただの“ナンパ”だ。 『にゃー…』 「せ、セーマ?」 突然、セーマが猫の様な鳴き声を挙げる。 保安官の視線は、ティナの腕の中の黒猫に注がれた。 「これはこれは、可愛らしい猫ですね」 胡散臭い褒め言葉を述べ、その漆黒の毛並みを撫でようと手を伸ばした。 だが。 ――がぶッ!! 「いだぁぁーーーーーーっ!!!!」 伸ばされたその手に、セーマは思いっ切り噛み付く。 保安官の表情が苦痛に歪んだ。 『今だ、走って』 「あ、う…うん!」 歯型の付いた手を労る保安官を残し、ティナはその場から走って逃げ出した。 . [前へ][次へ] [戻る] |