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┣╋CENTURIA╋┫
彼人よ、香る風
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―――――







「憂様ぁーーっ!!」



教会の廊下を歩いていると、進行方向の先から手を振って走ってくる女性の姿が目に入った。




「はぁー…、礼拝終わったのに中々戻ってこないから、探しにきちゃいしたよぅ!!
まぁた本でも読み漁ってきたんですかぁ?」

「ごめんね、雪菜(セツナ)」

「全くですよぅ!!
私じゃなきゃ憂様の専属シスターは務まりませんねっ」



憂の前にやって来ると、雪菜と呼ばれた女性は呼吸を整え、可愛らしい笑顔を浮かべた。




「さぁっ!お仕事パパッと済ませて、のんびりティータイムでもしましょう♪」

「はいはい」



憂の細い手を引き、自室へと促そうとした。

だがふと異変に気付き、雪菜は足を止める。




「…雪菜?」

「なぁーんか、においません?」

「におい?」



見当もつかず憂は首を傾げた。

だが怪しみ続ける雪菜は、不躾にも憂の耳元に鼻を寄せる。




「せ、雪菜?」

「憂様…においます」

「えっ、私!?」



雪菜はゆっくりと顔を離す。

そして動揺する憂に対し、疑いの視線を向けた。





「憂様から男の匂いがしますっ!!
まぁーたあのがきんちょが来たんですか!?」

「がきんちょって…伊織くんが可哀想でしょ」

「あぁーーー認めたっ!!
もーぅ、油断も隙もないんだから!!」



憂は苦笑し、怒り狂う雪菜を宥めながら自室へと足を進める。




「大体っ!ここは教会関係者以外立ち入り禁止なんですよ!?
いつもいつもどこから入ってくるんですかぁ!?」

「伊織くんは街の抜け道に詳しいって言ってたから、この教会にも何処かに抜け道があるのかもね」

「きいいぃぃぃっ!!
早く見つけて塞がなくっちゃ!!」



雪菜の甲高い声が、静かな長い廊下に響き渡る。

癇癪を起こす彼女の傍らで、憂は窓の外を上げた。


真昼の太陽が眩しく輝き、真っ白な教会の壁を照らす。



今日もきっと、良い一日になるだろう。

憂はそう感じ取り、柔らかい笑顔を浮かべた。




「あっ!そうだ憂様っ!!
お仕事が終わったら、ナツが医務室に来て欲しいって言ってましたよぅ」

「棗(ナツメ)先生が…?
分かったわ、すぐに向かいますと伝えておいてね」

「はぁーいっ」



いつの間にか自室の前まで辿り着き、憂は雪菜に別れを告げた。

静かに扉が閉まると、雪菜はその足で医務室へと向かう。












――ガチャッ



「ナツぅ〜♪」



雪菜はノックもせずに医務室の扉を開け、機嫌が良さそうに入室した。

机に向かって書類を纏めていた白衣の青年は、溜息をつきながらゆっくりと振り向く。




「セツ、医務室では静かに」

「いいじゃんっ!どうせ病気や怪我でここに来る患者さんなんかいないんだからさぁ」

「全く、『祝福の乙女』様様だな」



そう言って青年・棗は苦笑し、椅子から立ち上がった。

ポットに水を入れて湯を沸かし、茶葉の用意をする。




「紅茶でいいか?」

「お砂糖は二つね〜」

「…相変わらず甘党だね。
ていうかセツ、憂様の手伝いはいいの?」



パイプ椅子に腰掛け、クッキーを口にしながら雪菜は言った。




「私がお手伝いできる事と言えばぁ……、一日のスケジュール確認、お茶の用意にお洗濯、それから着替えとお花の水遣り…」

「つまり、肝心な憂様の手伝いはしてないんだ」

「だってぇ…手伝わせて下さらないんだもん」



雪菜はしょんぼりと肩を落とした。







――『祝福の乙女』。

奇跡の力を用いて、人々を不幸から守る聖女。


だが多忙な筈の彼女は、自分の仕事を他の誰かに押し付ける事は絶対にしなかった。

たとえ、専属のシスターでさえ――…





「もうちょっと頼って下さってもいいのに…。
いつか倒れちゃうんじゃないかって心配だよ」

「まぁ、セツに仕事任せても心配なんじゃない?」

「が、頑張るもん!!」



棗の茶化しに反論し、雪菜は頬を膨らませた。

その間にポットの中身が沸騰し、アールグレイの香るカップに湯を注ぐ。

そして要望通り、砂糖を二つ添えて雪菜に手渡した。




「そうそう!心配といえば、あのがきんちょ!!
まぁた教会に忍び込んで憂様と会ってたのよ!!」

「奏芽伊織(ソウガイオリ)のこと?」

「憂様も『乙女』だっていう自覚なさすぎーっ!!
男物の香水まで匂わせちゃって、あの不良マジで憂様に何してんだっつーのっ!!」

「口調変わってるよ、セツ」

「………あは、ついうっかり〜♪」



無意識のうちに、徐々にドスのきいた声色になっていたことを指摘され、雪菜は慌てて舌を出し、はにかんだ。

棗は自分のコーヒーを啜り、小さく溜息をつく。




「憂様も人が良いからね。
来るもの拒めず、状態なんじゃないのかな」

「ほーんと、私がしっかり見張ってなくちゃ!」

「憂様、まだ19歳だっけ?
セツより年下だとは思えないね」

「ちょっとぉ!!それどーゆー意味っ!?」



頬を膨らませながらも、雪菜は一気に紅茶を飲み干し、即座に立ち上がった。




「んじゃっ、そろそろ様子見に行ってくるねっ」

「あ、そうだセツ」



棗は咄嗟に、医務室を出て行こうとする雪菜を呼び止めた。

そして、意味深な笑みを浮かべる。






「“なるべく早く”ここに来るように、憂様に伝えてね」

「ふーん…了解っ♪」



雪菜は一瞬不思議そうな表情を浮かべるが、すぐに明るい笑顔に戻り、扉を閉めた。






















 隼茉棗と隼茉雪菜。


 教会の医師と
 専属シスター。


 血を分け合った
 双子の兄妹。







 彼らは『乙女』の
 数少ない理解者。















 登場人物は 
 出揃いました。











 さぁ、お客人?


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 開いてみましょう。









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あきゅろす。
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