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┣╋CENTURIA╋┫
赤に囲まれた心












『…いい加減にしないか、伊織』






――なんだよ。






『お前も、もう子供じゃないんだ。
いつまでも夜遅くまでフラフラ遊び回って…奏芽家の跡取りとして恥ずかしいとは思わないのか?』






――うるせぇな。

俺は好きでこの家に産まれたんじゃねぇよ。






『…本当にどうしようもない奴だ。
死んだ母も、今のお前を見て嘆いているだろう』






――…ふざけんな。

てめぇが母さんの事を言えた義理か?








「――…ッ!!!!」




血飛沫が、飛ぶ。

喧嘩の時、俺は絶対に相手を生き物だと思わない。




“これ”は、玩具。

俺は、“遊んでいる”だけだ。






「ゆ、ゆる…し――…」



――ドカッ!!!




なんて、無様なんだ。

命乞いなんて真似するくらいなら、始めから喧嘩売らなきゃいいのに。




気付けば俺の周囲には、沢山の男達が倒れていた。


人なんか、簡単に死ぬ。


相手が泣き叫ぶまで、

殴り、蹴り、締め上げ

――…喉笛を潰す。






強く握った俺の拳には、男達の“赤”が染み付いてた。

拳だけじゃない。

全身に、汚い“赤”を浴びた。



黒い服を着ていても、気味が悪いほどにその“赤”が浮かび上がっている。





汚い――…。






「お疲れ〜、伊織」



耳障りな声に反応し、伊織はゆっくりと顔を上げる。

倒れている男達の向こうで、同じチームの幹部に囲まれながら剣は、手を振っていた。

こちらの心境など露知らず、煙草に火を点けながらニヤニヤと笑っている。


高見の見物とは何様気取りだ、と伊織は舌打ちをした。

この喧嘩も、どうせ剣が吹っかけたものに違いない。



「いつになく殺気立ってたねぇ、伊織。
そういう顔、嫌いじゃないぜ?」

「…別に、いつも通りだ」



人を殴る感触は、久々だった。


その所為だろうか。

身体が、小刻みに震えている。



その震えを止めたくて、向かってくる相手を更に強く殴った。


それでも結局、震えは止まらない。


寒さの所為か、それが何を意味しているのかも分からなかった。











「伊織が居てくれると、ホントに助かるよな。
俺が出て行かなくても全部掃除してくれるし、怖いモン無しだ」




――怖い?


まさかこの震えは、恐怖、なのか?






「…なのに、残念だなぁ」



剣の声色が、変わった。

気付けば伊織の周囲には、柄の悪い少年達が沢山集っている。

皆、同じチームの者だった。


伊織は表情を険しくさせ、遠くで楽しそうに笑う剣を睨み据える。



「…何の真似だ」

「そりゃこっちのセリフ。
伊織、お前この三ヶ月間どこにいた?」



剣の口調は穏やかだったが、何かに苛立っている事が分かる。

すると彼は煙草を揉み消し、真っ直ぐに伊織を見た。




「――祝福の乙女」



剣の口から出たその名は、伊織を更に震え上がらせた。



「最近、聖職者とつるんでたんだろ?」

「……」

「この噂、結構有名なんだよなぁ。
で、うちのチームの評判にも結構響いたってわけ」




漸く、伊織は納得した。


今日まで相手をしてきたチームは、どれも取るに足らぬ程の弱小グループ。

以前ならば、自分達の身の程を知り、こちらとの喧嘩など絶対に買わない相手。


これは恐らく、彼らが伊織の噂を鵜呑みにした結果だろう。

更に剣は、それらの掃除を全て伊織一人にさせた。




「今までの喧嘩は、自分で撒いた種の後始末。
そんで、これは落とし前」



剣が楽しそうに言うと同時に、少年達はナイフや鉄パイプなどの武器を取り出し、伊織を囲んだ。

伊織の不機嫌に歪んだ表情を見て、剣は更に楽しそうに笑った。



「別に殺そうなんて思っちゃいないよ。
チョット痛い思いしてくれたら、俺の気分も晴れるからさ〜」



軽い筈のその口調だが、微かに機嫌の悪さが滲み出ている。






剣の言う通りだ。

これは、自分で撒いた種。

自分の浅はかな行動の結果だ。

長年世話になったチームに迷惑を掛けて、何より彼女に要らぬ涙を流させてしまった。

罰は、受けるしかない。



そう自分に言い聞かせ、伊織は素直に瞳を閉じた。

隙だらけの彼に、少年達は少しずつにじり寄る。











「なぁ…『祝福の乙女』ってのはどんな女だ?」



だが聞こえてきた剣の言葉に、伊織はうっすらと瞳を開いた。



「俺、シスターってのはどうも興味がないんだけど。
けど、あの奏芽伊織クンがそこまで入れ込んだんだ。
相当イイ女なんだろ…?」




醜い、男の言動。

その全てが、伊織の神経を逆撫でする。





「俺も挨拶しに行こっかな――…“乙女”にさ」




その瞬間、少年達は一斉に伊織に襲い掛かった。




――ガキィィィンッ!!


飛んで来た鉄パイプを、伊織は咄嗟に腕で跳ね退けた。

鈍い音が辺りに響き渡り、少年の手から鉄パイプが落ちる。




その光景に、剣から笑みが消えた。




「剣…何してんの?」

「…く、な…」



――バキッ!!


か細い声が聞こえたかと思うと、伊織は傍にいた少年の顔を思いっきり殴った。


まさか反抗すると思っていなかった他の少年達は、動揺し、後退る。


何より、伊織の殺気は尋常では無かった。




「――…お前みてェなクズが、あいつに近付くんじゃねぇ!!!!」



修羅のような形相の伊織が、大声で怒鳴り散らす。




時刻は真夜中。

冴えない曇り空から、一滴の雫が地に落ちた。


















 “赤”に塗れた
 少年の身体。






 天から落ちた雫が
 全てを洗い流す。




 晒された心は、


 眩しいくらいに
 綺麗だった。










 穢れた両手を
 握り締めながら、


 少年は、誓った。












「…うれい…」









 心に残る尊い存在を


 愛し抜こうと――








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あきゅろす。
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