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【AA】double ace
始まりの朝
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 窓から暖かな太陽の日が差し込み、小鳥の囀りが聞こえる。

 正に門出に相応しい、そんな朝だった。



 ――東聖都クレミア。

 自然の豊かな都市であり、民は穏やかに暮らしている。

 またの名を商業都市とも呼ばれるクレミアの大商店街は、多種多様な物資、行商人の激しい呼び込みと人々の賑わう声で溢れ返っている。


 だがこの日は、いつにも増して人が集まっていた。

 盛大な音楽。
 行き交う人々。

 その表情は幸せそのものであった。



 今日クレミアでは、新たな[夢神子]の戴冠式が行われるのだ。

 [夢神子]とは、夢で未来を見る預言者のこと。

 その昔、創造主ネイフェリアがそれぞれ四つの聖都の統率者に授けた予知能力。

 その力は、遺伝とは関係なく次の代に受け継がれ、今日まで聖都の未来を導いていた。


 ここ最近クレミアでは、先代の[夢神子]が病で死に致り、わずか17歳の少女にその力が受け継がれたばかりだった。



 都市の中央には、天高く聳える〈夢幻城〉が存在している。

 都市のシンボルとも言えるその美しい建造物は、[夢神子]を祭る為の寝殿であった。


 その城の小さな窓から、聖都を見下ろす影が二つ。

 一人は背の高い、顔の整った銀髪の青年。

 そしてもう一人は、漆黒の長い髮を持つ、美しい少女であった。


 「いよいよ…今夜ですね、ユーシィ様」


 落ち着いた低い声で青年が語り掛けると、ユーシィと呼ばれた少女はふんわりと微笑んだ。


 「そうね…。民が[夢神子]の戴冠をこんなに祝福してくれるなんて、本当に喜ばしい事だわ」


 少女の儚い微笑みに、青年は困ったような笑みを返す。


 「…少し、お顔の色が優れませんね。
戴冠式までまだ時間がありますし…少し休まれてはいかがですか?」


 式の途中に倒れられては困ります、と付け足す。

 それもその筈。

 少女は式の段取りや就任後の準備などで、ここ数日の疲労が溜まっていたようだ。


 「…そうね、少し仮眠を取るわ。ありがとう、ディクセン」

 「では、良い夢を」


 ディクセンと呼ばれた青年は丁寧に一礼すると、静かに部屋から出た。



 一人部屋に取り残されたユーシィは、そっと出窓を開けた。

 暖かい日差しが入り、心地良い風が吹き抜け、少女の長い黒髮を揺らした。

 ユーシィはもう一度、賑わうクレミアの街を見下ろした。


 そして静かに、空を見上げる。



 「――…」


 雲一つない空。

 視界が全て青に染まる。

 彼女の深海を思わせる深い蒼の瞳も、この瞬間だけは眩しいばかりの空色に染まっていた。


 その景色を遮るように瞳を閉じて、ユーシィは静かに口を開く。




 「このまま、飛んで行けたらいいのに…」


 そう呟いたユーシィは、先程とは違い、酷く哀しい表情をしていた。






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