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【AA】double ace
移り変わる絵画








ユーシィの心境を、ディクセンは誰より理解しているつもりだった。

心も身体もボロボロになって、生気を感じられない。


生きてゆく気力を持たない人間は、死んでしまう。

そう悟ったディクセンは、今は亡きケイを心の底から怨んだ。




この場にいれば、思いっきり殴ってやりたい。

そう思ってディクセンは、唯一彼の姿が確認出来るステンドグラスに視線を向けた。

瞬間。







「――…」





言葉を、失った。











「ユーシィ様…!あれを!」




そう言われ、ユーシィも顔を上げる。

そこには真夜中に見ていた筈のステンドグラス。

だが、何かが違っていた。






「これ、は…」




ステンドグラスに描かれている、創造主に抱かれた赤子が



――…二人になっている。







「…どうして、こんな…」

「まさかこれは…ケイと、シン?」




瓜二つの赤子…二人の【カイザー】は絵画の中で幸せそうに笑っていた。




ふらりとユーシィは立ち上がり、その不思議な絵画に近付く。




「これは、貴方達なの…?」

「ユーシィ様…っ」




普段のディクセンなら、得体の知れない絵画に彼女を近付ける事はしない。



だが、今回は引き止めようとはしなかった。

彼も心のどこかで、奇跡が起きるかもしれないと願っていたから。










「ねぇ、そうだよね…?」







ユーシィは白く細い腕を掲げて、掌をステンドグラスの赤子に向けた。

目を細め、縋る様に言葉を紡ぐ。





彼らに、届くように。













「帰っておいで…。




【カイザー】達…――」









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あきゅろす。
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