【AA】double ace かなしいゆめ ―――――――― 「これは…夢、かしら」 深い深い闇の中、ユーシィは一人で佇んでいた。 暗闇の中で特に驚きもしないのは、これが初めてではなかったから。 ユーシィは三年前の革命の日から毎日ずっと、この夢を見続けている。 予知夢ではないこの夢は、彼女に至福の時を与えていた。 この夢だけが、ユーシィと彼を繋げるたった一つの架け橋。 ユーシィの遥か遠くで白い光が集まり出す。 その光は形となり、人の姿になった。 見知ったその人影に、ユーシィは笑みを零す。 「……ケイ」 光はケイの姿となった。 三年前の姿のまま。 初めて出会った時と変わらない、18歳の姿のまま。 彼女がケイの死を認めない原因は、全てこの夢にある。 毎日夢の中でケイと会っている彼女は、いつかこの夢が現実となるなではないか、と信じていた。 ユーシィはもう、[夢神子]ではないのに。 「ケイ…っ!」 こちらに笑顔を向けるケイに、ユーシィは走り寄ろうとした。 だが、不思議と体が動かない。 いつもと違う様子に、ユーシィは顔を歪めた。 「どう…して…っ」 ユーシィは遠くのケイを見て目を見開いた。 笑っている彼の足元が、ひび割れている。 ――このままではケイは、奈落の底に堕ちてしまう。 「ケイ!逃げてっ!!」 そう叫んだつもりだが、彼にはその声が届いていない。 みしみし、と地面が音を立てて崩れ始める。 すると、動かなかった体が自由を取り戻した。 「ケイ…っ」 ユーシィは必死で彼の元へ駆け寄る。 だが。 ――ぱしっ!! あと少しで手が届くという所で、ユーシィは後ろから誰かに引き止められてしまった。 だが彼女の頭には、目の前のケイを助ける事しか頭にない。 必死に手を伸ばす。 「離してっ!!このままじゃケイが…ケイが…っ」 次の瞬間。 『もう、手遅れなんだ』 ユーシィを引き止める誰かが声を発した時。 ケイの足場は音を立てずに崩れ落ちた。 彼の翡翠の瞳と、彼女の深海の瞳が交差する。 ケイは一瞬、ユーシィに悲しそうな笑顔を向けて深い深い闇へと堕ちていった。 目の前で、彼は消えた。 三年間、たった一つの希望だった 夢の中の彼までもが。 「いやぁぁぁぁぁっ!!!!!!」 ユーシィはその場で肩を震わせながら泣き崩れる。 全てに絶望してしまった彼女は、涙を流す事以外、何も出来なかった。 『ユーシィ』 すると、引き止めていた誰かは彼女の手を離し、そっと頭を撫でた。 温かい大きな掌。 『これは三年前に起こった現実だから…今の君がいくら走っても間に合わないんだ』 優しく響く低い声。 『過去に囚われるな。 今を生きて、現実を受け止めるんだ。 君は強い、まだ頑張れる』 どこか懐かしい。 その温もりは、誰? 「…っ…誰、なの?」 ユーシィが後ろを振り返った瞬間。 眩しい光が視界一杯に広がり、思わず目を細めた。 そこで、夢は途切れた。 [前へ][次へ] [戻る] |