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【AA】double ace
Promise











――…涙で視界がぼやける。





だけど闇の向こうから、確かに誰かが歩み寄って来ている。






あ、かい…










朱い、髪…。

























『――これが、今の俺…【カイザー】だ…』
















青年はそう言って一歩ずつ歩み寄り、ユーシィの目線を合わせるように屈んだ。



色鮮やかな朱い髪に、美しい翡翠の瞳。

その皮膚は無機質の様に白く、身体中に沢山の紋章が刻まれていた。



――その姿は、まるで創造主のよう。





けれど声も穏やかな顔つきも変わらない、

その人は。









「…ケイ…」






――完全な【カイザー】になるという事は、

人間じゃなくなる、という事なんだ。




極めて創造主に近い存在として、彼は強大な力を授かった。




だから、こうして[夢神子]を夢に呼ぶ事が出来たのだ。






――…今のケイはもう、彼女の知っている姿ではなかった。




けれど――…










「ケイ」




力なく震えた手が、暗闇に浮かぶ。

ユーシィは縋るように、ケイに手を伸ばした。


合わさった彼の手は、氷のように冷たかった。






『こわく…ないのか?』




拒絶される事への恐怖からか、恐る恐る合わせている彼の手を…

ユーシィは、しっかりと握った。






「怖くないよ…。だって、ケイだから」



怖いわけ、ないよ。

そう言って、瞳に涙を溜めて笑う少女に


ケイは喉を震わせた。




「っ…」



すると自然に身体が動き、ケイはユーシィを強く抱き締める。






『お、れは…』






『…俺は、ユーシィが好きだ』






――耳元で響く、愛しい声。


変わらない、優しい音色。







「…うん、私もケイが大好きだよ…」





光が溢れ、消えかかっているユーシィの身体をケイはそっと離す。


変形した翡翠の瞳から、ケイは涙を流していた。







『…君に、会えて、本当に良かった』





ケイが必死に紡ぐ言葉に、ユーシィは耳を傾ける。










『君と、一緒にすごせて…よかった…っ』











彼の言葉一つずつを、大切に受け取る。











『俺は、君と…――ッ!!』

















哀しくて、悲しくて、言葉が見つからない。



これは、どこかで感じたことのある気持ち。





他でもない、母さんが死んだ時の痛さに似ている。











ただ違うのは、




















『ユーシィと、幸せになりたかった…っ』











俺が君を【置いてゆく立場】だということ。















ユーシィはそっと、涙で濡れたケイの頬を優しく拭う。






なんて綺麗な雫なのだろう、と感じた。


















「幸せに…なろうよ」











私も、貴方と未来を歩みたい。










「ケイは絶対に戻ってくるって…信じてる」








予知夢などでは知り得ない、不確かな未来を。






貴方と、一緒に。

















『ユーシィ…っ』








例えどんな姿になっても



どんなに恐ろしい力を持っていても…





貴方はケイだよ。
















態度が悪くて


短気で


ケンカっ早くて


ぶっきらぼうで…











でも、





人一倍優しくて


人一倍強がりで


人一倍寂しがりやで


人一倍温かくて…。





誰よりも、純粋なひと。









そんな貴方を、みんなが好きになった。


みんなが信じた。






きっとこれからも…








ずっと、ずっと。















「約束しよう…――ケイ」














そっと、






体温のない冷たい唇に、口付ける。










この広い世界で、



最も愛しい貴方との、約束の証。




























「また、会おうね」















最後に、見えたよ。








貴方の笑った顔が―――……









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あきゅろす。
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