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【AA】double ace
希望の光










「…お前、可哀相だ」




傷を負いながらも、ケイはふらふらと立ち上がる。

腕から流れる血を手で抑え、痛みに耐えながら。
それでもケイは、覚束ない足取りでシンに歩み寄る。





「く、来るな…っ」

「お前、可哀相だよ…。
そうやって目先の結末ばっか恐れて、楽しい事とか嬉しい事…忘れてたんだろ?」






――俺みたいに、世界を見ようとしなかったんだ。

ただ、唯一自分について知っている創造主の手足となって、
したくもない殺戮ばかりを繰り返していた。





「黙れよ!ケイに俺の何が分かる!!」

「分かるよ…だって、俺は…――シンだから」

「!?」







今まで分からなかった。
卑劣で、残虐で、

俺の大切なものばかり狙う、俺の半身。


シンが何を考えているかなんて分からないし、知りたくもなかった。



だけど、今は分かるんだ。



周りが全て敵に見えて、
誰にも自分を見てもらえない。

見てもらおうなんて思わない。


唯一の支えだった母さんも死んで、


…自棄になって、まるで。















「お前は…ユーシィに出会う前の俺なんだよ」





恐怖で顔を引きつらせるシンの目の前まで来る。
するとケイはシンの腕を掴み、体を隠すマントを引きちぎった。




「…ぁ…あぁ…っ」





シンの体には、ケイと同じ箇所に切り傷が出来ていた。

それは、二人の【カイザー】が一心同体として、一つになる時を告げている証拠。

ケイは目を細める。





「もう、時間がないんだ…。お前も、俺も」

「嫌だっ!…まだケイに戻りたくない!!
俺だってまだ生きたい!!誰かに必要とされたいんだ!!!」






まるで幼い子供のように、シンは涙を流して首を横に振った。
一歩ずつケイから離れ、その場にうずくまってしまう。




「シン…」

「来るな!まだ消えたくない…っ」




シンは手足を震わせ、顔を俯かせる。
腕からはケイと同じく血が流れ、地面に染みていった。










「俺だって…怖い」




ケイが呟いた言葉に、シンはゆっくりと顔を上げる。
目の前に立つケイの瞳からは、一筋の雫が流れていた。

二つの翡翠が交差し、同じ涙を流す。





「怖いんだ…。このままお前と一つに戻って、完全な【カイザー】になって…。
でもその時、俺は本当に俺のままでいられるのか?
もしかしたら…本当の“ケイ”は、全く違う人間なのかもしれない……っ」


「ケイ…」


「融合して、自我が消えるのはお前だけじゃない。
今の俺だって…消えるんだ」








――顔も、声も、

全てが同じ二人。


だけど時が経つにつれ、それぞれの思考や感情は違うものになってしまった。


同じ存在であっても“ケイ”も“シン”も世界に二人と存在しない、別人なのだ。







「だけどいつまでもこのままじゃ駄目だ。
俺達が先に進めまなきゃ…全部が終わってしまう」


「先に…進まなきゃ」






シンは立ち上がり、ケイに手を伸ばす。

ケイもシンにゆっくりと手を伸ばした。








「俺もお前も、今は全く違う人間。
だけど…母さんが死ぬまでは、同じ“ケイ”だった」


「怖がる必要なんかないんだ…。ただ、本来の俺に戻るだけ」








お互いに言い聞かせるように、手を取り合う。


その瞬間、











   『俺は…【カイザー】なんだ』















二人の体から眩い光が放たれる。

その暖かい光は、全世界に届いていた。





それはまるで、希望と呼ぶのに相応しい光だった…。







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