【AA】double ace
最大の敵
そうして歩いて行くとやがて、岩場に囲まれた広い場所に辿り着いた。
すると突然前を歩いていたシンが立ち止まる。
「そう言えば、ケイは全部聞いたんだろ?
この世界の本当の仕組みも、創造主の目的も…」
「……ああ」
「なぁ…それ聞いてどう思った?」
相変わらずの妖しい笑み。
ケイはシンのその笑いが気に入らなかった。
茶化す様なその訊ね方に、ケイは鋭く睨みつける。
だが当の本人は全く気にせずに話を進めた。
「やっぱり、許せないとか悔しいとか思った?」
「っ…当たり前だ」
「へぇー…そうなんだ」
――…何が言いたいんだ、こいつは。
「……俺は違う」
「…?」
「俺は初めて、創造主から聞いた[夢神子]の末路を時…――」
その瞬間。
――ドォォォォォン!!!!
「なっ!?」
シンは突然、ケイに掌を向けて鋭い閃光と共に空気の刃を放った。
ケイは咄嗟にその攻撃を避ける。
標的をなくした刃は、ケイの後方の岩を大きく切り崩した。
「すごく嬉しかったんだ。…苦しい思いをしてるのは、俺だけじゃなかったから」
「なんだと…っ!?」
誰かが苦しい思いをしている。
それが嬉しいだって?
攻撃したシンの表情は、喜びでも悲しみでも、怒りでもない。
『無』であった。
「ケイ…選定する為にここへ来たんだろ?
だったら、俺を倒さなきゃ」
「な、に…?」
「俺の肉体を滅ぼして精神を取り込まなきゃ、完全な【カイザー】にはなれないんだ」
創造主もそんな事を言っていた。
シンと一つになり、完全な【カイザー】になれと…。
ケイはシンの凄まじい攻撃を避けながら、問いかけた。
「お前は…一体何を考えているんだ!
なぜここまでして、創造主に仕えるんだ!?」
「――ケイ、知ってるだろ?
俺達は元は一つだった。
だけど力の抑制がきかずに、体と精神が分裂して俺はクレミアを放り出されたんだ」
いつもより低いシンの声。
だが口元にはいつもの笑みを浮かべている。
「無知な俺が最初に創造主に教わった事は、俺がケイだってこと。
…それなら俺は何の為に生まれた?」
「何を言っている…っ!?」
「答えは簡単だった。俺は……
――生まれる筈の無い存在だったんだ」
その瞬間、
シンの攻撃が、油断していたケイの体を捉えた。
――ズバッ!!
「うわぁぁっ!!!!」
鋭い空気の刃が、ケイの体を切り裂いた。
そのまま、勢いよく岩に背中を叩きつけられる。
「ケイ…分かるか?お前にこの気持ちが」
「ぐ…っ」
「創造主は俺の誕生が想定外の出来事だと言った。
…俺は、望まれて生まれた存在じゃなかったんだ。
でも、な?
創造主はそんな俺に【神】っていう名前と、使命をくれたんだよ…」
その使命こそが、ユーシィの殺害。
シンは、その使命を生きる意味として捉えていた。
ケイは【カイザー】、
大きな使命を持って産まれた、世界に必要な存在。
…それじゃあ、俺は何?
俺の傍には、
ケイの様に自分を心配してくれる人も、自分に優しくしてくれる人もいない。
そんなもの、必要ないと創造主は言った。
だって
つかの間の、存在だから。
いずれはケイに返る存在だから。
それなら俺は、使命と名前をくれた主に、忠実に生きようと思っていた。
…だけど。
「どんなに非情になろうとしても、どんなに恐れられる人間になろうとしても…無理なんだよ。
――…無理だったんだよ!!
だって俺はケイだから!!
ケイの気持ちだって分かるし、ケイと同じ感情だって持ってる!!!
だから俺は……」
ユーシィや、他の奴らを
殺す事が出来なかったんだ…。
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