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【AA】double ace
最後の日〜北聖都〜






【北聖都インステラ】







「…すみません、ケイさん。無理言ってゲートを開けて貰っちゃって」

「いや…俺は全然構わないよ」



明日が選定の夜。
それを知ったクレミアに住むインステラの民は、祖国に帰りたいと懇願した。
最後の時は、自分達の生まれ育った地で過ごしたい、と。

ケイは快く承諾し、ゲートを開いてインステラへと向かった。





眼前に広がるインステラの風景は見る陰もなく、過去の栄華が完全に失われていた。

広い荒野。
地面は大きく裂かれ、惨劇の名残がある。

シンによって消え去った、何もない土地。
だがヤンノ達にとっては、掛け替えのない土地だった。

そんな光景を目の当たりにしたケイは、思わず目を背けた。


「…ケイ、そんな辛そうな顔をしないで?」



セリルがケイの服の裾を掴み、優しく笑う。
だがケイは首を横に振った。



「ごめん…俺、止められなくて…」

「ケイが謝る必要なんてない!
それより明日の事だけ考えて?
中途半端な選定を下したら、許さないんだから!!」



今にも飛び掛ってきそうな勢いで、セリルは勇ましくケイに言った。
それが彼女なりの、激励の言葉なのかもしれない。


それからずっと会話をする訳でもなく、インステラの民達は必死に祈りを捧げていた。
既に夕日は姿を消し、銀色の月がうっすらと浮かんでいる。

決して、創造主に祈っている訳ではないのだ。

だがここは宗教都市。
彼らはこんな時、何かに祈る術しか知らなかった。



「俺…もう行くから」



ケイはそんな様子を一頻り窺ってから、立ち上がった。
ヤンノは静かに頷く。



「クレミアに戻られるのですか?」

「いや…。どこか一人になれる場所を探して、そこで考える」

「いいんですか…?ユーシィさんの傍にいなくて」



やっぱりそれを聞くか、と思いながらケイは首を横に振る。



「…あいつの傍にいたら、俺の決心はきっとぐらつく。そんなの平等じゃないだろ?」

「そう、ですか…」



ケイはその場を去ろうと、皆に背を向けた。
突き刺さる視線が痛い。


――…当たり前だ。

俺はこの世界中の人にとって、怨まれる存在。

皆が過ごす筈の未来。

その幸せな日々を壊す、破滅の使者…――






「ケイさん!!」



突然ヤンノに後ろから呼び止められ、ケイは振り返った。




――みんなが…笑っている。

ヤンノやセリルを含めた民達は、暖かい眼差しでケイを見つめ、微笑んでいた。
目を見開いて驚くケイに、ヤンノは叫んだ。



「僕らは…貴方に感謝してます!!
土地は守れなかったけれど…貴方は僕らの心を守ってくれた!!」

「感謝します。そして…信じています、ケイ!!
あなたならきっと、正しい判断を下すと!!」


「――…っ」



暖かい、双子の声援。
ケイはそれに答える事なく、その場から逃げるように風と共に去っていった。

姿は見えなくなっても、インステラの民はケイという存在に感謝し続けた。

















「セリル…ごめんね」

「どうしたの?突然…」


月明かりの下。
荒地の上を歩いていると、ヤンノが突然頭を下げた。



「死んだ母さんと約束してたんだ。
『強くなりなさい。ヤンノはお兄ちゃんなんだから、セリルを守ってあげなさい』ってさ」

「そうなの?…ふふっ。
結局、私の方が強くなっちゃったのね!」


楽しそうに笑みを零すセリルを見て、ヤンノも優しく微笑み返した。


「…もし、明日」

「え?」

「明日…インステラが滅ばなかったら…。僕に体術を教えてよ」


何を言い出すかと思えば。
突然の申し出にセリルはほんの少し驚きながらも、茶化すように答えた。


「ヤンノが…体術?どうしたの、突然」

「妹に守られるなんてカッコ悪いからさ。
僕だって、セリルを守りたいんだ」


ムキになって懇願する双子の片割れ。
…よく分からないけど、そういうものなのか。


「分かった。まずは体力作りからね?ヤンノ細いし、小さいから…」

「背はこれからいくらだって伸びるから!!」





…そうだね。

自由になったヤンノはいくらでも強くなれる。
ケイがインステラに来る前と比べて、凄く強くなった気がするよ。




「ね、セリル。久しぶりに舞を見せてよ。
今日はいい月夜だ。都市が復興したら、また祭りをしよう」

「…うん」





何もない、

ただの荒地だけれど…




確かなものがここには存在している。








ここは、私達にとって大切な大切な場所だから。








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あきゅろす。
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