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【AA】double ace
先の見えない未来







―――――――――





「う、うぅ…」

「ケイ!大丈夫ですか!?」



目を覚ますと、そこは〈夢幻城〉の玉座の間。
目の前には、心配そうに顔を覗き込むセリルの姿があった。



「ユーシィ様!ヤンノ!目が覚めましたか…」



ディクセンの声がした方に視線を向けると、ケイと同じように体を起こすユーシィとヤンノの姿があった。
ケイは未だ覚醒していない頭で、懸命に記憶を辿る。



「ここは…?そっか、俺は夢を見てたのか…」

「…夢なんかじゃないわ」



震えるユーシィの声。
それはヤンノも一緒だった。



「…悔しい!今まで崇めていた創造主が、僕達を裏切っていたなんて…っ」

「ヤンノ…どういう事?」



セリルとディクセンには、訳が分からなかった。

これまでの経緯を説明しようとするヤンノを置いて、ケイは起き上がり、部屋を出て行こうとした。



「ケイ…っ!待って!!」



ユーシィも慌てて起き上がり、ケイと共に部屋を出た。











二人は無言のまま、夢幻城の中庭に出た。

時刻は夕方。
傾きかけた夕日が、戴冠式の傷跡を残した中庭を照らす。

辺りは柱の残骸などで、見る影もない。


壊したのは、ケイの半身。
目覚めたばかりの無知なシンは、創造主の理想を信じてしまった。

その結果が、この被害。

そんな光景を見つめながら、ケイは苛立つ気持ちを抑えるように拳を強く握った。



「こんなの…俺は許せない!許される事じゃない!!」



多くの人の命を弄んで、挙句救えるのは一部の都市だけ。

確かに戦争の発端は人間だ。
それは紛れもない事実。
だけど後世に生まれた人間の命まで、犠牲にする事はない。

ケイは感情に任せて、ユーシィの肩を強く掴み、問いただした。




「なぁユーシィ…。俺のしてる事は間違ってるか?
このまま創造主の思うまま、世界を選定するしかないのか!?」


「…ケイ…っ」


「みんな苦しんだ筈だよな!?
[夢神子]になった瞬間から幸せを諦めて、自分達がいい様に使われている事も知らずに死んでいったんだ…。
ヤンノも、ファーヌも、マオも……ユーシィだって!!あいつのせいで沢山苦しんだ筈だ!!!」


「ケイ!!落ち着いて!!」



叱咤され、ハッと我に返るケイ。
ゆっくりとユーシィから手を離す。



「…ごめん」

「落ち着いて…私の話を聞いて?」



こくん、とケイは素直に頷いた。

ユーシィはケイを倒れた柱の上に座らせ、宥めるように頭を撫でた。
朱い髪が夕日の染まり、更に鮮やかさを増す。




「…私とヤンノが予知夢を見なくなった理由が、分かった気がするの。…多分、マオやファーヌも見ていないと思う」

「どういう事だ…?」

「つまりね、創造主にもこの先の未来が見えないのよ…。だから、[夢神子]に未来を見せる事が出来なかったんだと思う」



ケイは黙ってユーシィの言葉に耳を傾ける。



「でもね、きっとこの結末はケイがどの都市を選んでも、創造主の望む結末になってしまう。
創造主は、ゼフォムに会うことを一番に考えているから…」

「分かってる…。じゃあ俺は、このまま都市を選ばなくちゃいけないのか…?」



ケイの呟きに、ユーシィは静かに首を横に振った。



「創造主には、この先の未来が見えない。
見えるのは、自分が仕組んだ目先の野望だけ…。
本当の結末を決めるのは…貴方よ、ケイ。
貴方が望む結末を、創ればいいのよ」



そう言って優しく笑うユーシィの顔を見て、ケイは無償に泣きたくなるのを堪えた。





「俺が決める結末…。俺が望む結末…」

「…そっか…ふふっ」



突然独り言を言って微笑むユーシィに、ケイは首を傾げた。



「何だよ…ユーシィ?」

「なんかね…沢山分かっちゃった。
私が創造主から恨まれる理由も…」



込み上げる笑いを抑えながら、ユーシィは笑顔を絶やさずに、続けた。



「きっとこんな風に、創造主にとって良くない方向にケイを説得するから『罪人』呼ばわりされちゃうのね…」











――きっと、そうだ。


この少女はいつだって、迷っている俺を正しい方向へと導いてくれる。



ずっと近くにあって、届きそうで届かなかった光…。



今なら、届くだろうか…――?









「ユーシィ…」



ケイは立ち上がって、ユーシィを優しく抱き締める。
されるがまま、彼女も優しく背中に腕を回した。




「ごめんね…何も出来なくて。
こうやって、慰める事しか出来なくて…」

「充分だ…」





傍にいて、
支えてくれて、
弱音を聞いてくれて、


欲しい言葉も、欲しい温もりも…

君は全部持っている。



それだけで、充分だよ…。






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あきゅろす。
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