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【AA】double ace
花舞う、その時







―――――――――






聖都クレミアの街は、かなりの壊滅状態に陥っていた。

主に城の近辺は酷く、地面は裂け、民家は壊れ、もはや見る陰もない。


だが…――





「おぉーい!そっち材木足りてるか!?」

「ちょっとあんた!そこをちゃんと押さえててくれよ!!」



民は屈する事なく、懸命に復興作業を行っている。

そんな彼らにユーシィは励ましの言葉を掛けながら、市街を歩いた。

民もまた、ユーシィの笑顔に励まされ、必ず都市を元に戻そうと誓った。






そしてユーシィは、まだ見ぬ探し人を求めて街を歩く。



「どこに行ったんだろう…」


大通りを抜けて、民家の立ち並ぶ住宅街を探し歩くが、全く姿が見当たらない。

埒があかないので、ユーシィは近くの住民に尋ねて歩いた。



「あら、ユーシィ様!【カイザー】様なら、裏道を通ってあっちへ行きましたよ」

「そうですか…ありがとう」



住民が指差す方向は、空き地となっている筈の場所。

そんな所に何をしに行ったのかと首を傾げながらも、ユーシィは空き地を目差した。




――するとそこには、















「…わぁ…っ」




突然、大量の花びらが風に舞い上がるのを見て、ユーシィは思わず感嘆の声をあげた。

気候が暖かくなるこの時期、クレミアでは様々な種類の花が咲く。
空き地となっていた草原は壮大な花畑となっていた。

ユーシィが暫くその光景に見惚れていると――…
















――ふわっ


「えっ…」








誰かがユーシィの背後から、彼女の髪に手を伸ばした。

驚いてユーシィが振り返ると、




そこには鮮やかな朱い髪を風に揺らし、優しい翡翠で自分を見つめる、ケイの姿――




「…ぁ」



目の前の人物と視線を合わせたまま、ユーシィは時が止まったかのように動けなかった。

彼が目を覚ました事実が信じられなくて、まだ夢を見ているのではないかという感覚に陥る。


そんな不安を取り除くかのように、ケイは微笑みながら口を開いた。





「…久しぶり、だな」


「――…っ」



ユーシィは瞳を見開いた。



ケイが笑っている。

自分に話し掛けている。




「…これ、見舞いのつもりで摘んだんだけど」



そう言ってケイは照れ臭そうに、一輪の朱い花を差し出した。

ユーシィは動揺しながらも震える手で花を受け取る。




「あ、りがとう…。ケイ、怪我は大丈夫なの?」


「こっちのセリフだよ。
ユーシィこそもう起きて大丈夫なのか?」


「うん、平気…」















そこまで言って、




彼女の中で必死に我慢していたものが、
















突然、弾けた。

















――ぽたっ





「本当に、貴方なのね?
シンじゃなく――…“ケイ”?」


「ユーシィ…」






ケイは驚いて瞳を見開く。

彼女の深海の瞳からは堪えきれなくなった涙が溢れ、頬を伝っていたからだ。








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