【AA】double ace 終わりを告げる朝 その日、東聖都クレミアは驚くほど慌ただしかった。 城では翌日の戴冠式の準備や会場の設置、段取りや衣装合わせなどを念入りに行っていた。 また市街では、突然の発表にも関わらず、ユーシィの戴冠式を記念したパレードや前夜祭などが催され、大変な賑わいを見せた。 だが当の本人――ユーシィは、その光景をどこか他人事の様に見つめていた。 本当に、急な話だ。 戴冠してしまえば、一生<夢幻城>から出る事は出来ない。 だがユーシィはまだ、市街の民や孤児院の子供達になんの挨拶もしていない。 別れの挨拶さえも――…。 ―――――――― そうして時間は目まぐるしく流れ、気が付けば翌日の朝だった。 ゆっくりと寝台から起き上がったユーシィは、周囲から取り残された自分を取り戻そうと、身支度を済ます。 そうして寝室を出て向かった先は、他ならぬケイの所だ。 いつものように部屋の扉を開けて、中に入ったユーシィは、寝台に横たわるケイに視線を向けた。 もう何度、その寝顔を見ただろうか。 人が入って物音を立てても、眉一つ動かさずに安らかな表情で眠っている。 「ケイ…」 ユーシィはたどたどしい足取りでケイに歩み寄った。 「ケイ…ねぇ、朝だよ?」 ユーシィはケイの肩を揺さ振る。 だが、その瞳は閉じられたままだ。 「ねぇ、起きてよ…ケイ」 目覚めないと分かっていても、ユーシィはケイに呼び掛け続ける。 ――…ぽたっ ケイの頬に、一筋の雫が落ちた。 耐え切れなくなったユーシィの瞳からは、とめどなく涙が溢れ、頬を伝う。 「ケイ、私…今日戴冠するんだよ…っ? …もう会えなくなっちゃうよ…っ!」 起きて。 瞳を開けて。 最後に一度でいいから…、 その翡翠に私を映してよ…―― そんなユーシィの想いを無視するかの様に、ケイは全く反応を見せなかった。 ユーシィは何度もケイの体を揺さぶるが、彼は一向に目覚めなかった。 その表情はあまりに穏やかで、ユーシィは彼からも見放されたようにさえ感じる。 「…っ…ふっ…、ぁあっ」 「…ユーシィ、様」 そんな彼女の押し殺したような泣き声を、扉越しに聞いていたディクセンは、悲痛の表情で瞳を伏せた。 [前へ][次へ] [戻る] |