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【AA】double ace
責任





「…くだらねぇ」

「え…」



 ケイは視線を窓から外し、ユーシィに向き直った。

光のない、濁った色をした翡翠に射抜かれる。

 そして彼の口から出た呟きに、ユーシィは動揺を隠せなかった。



「くだらねぇよ…。都市の選定だの、破壊だの。
だったら他の都市にわざわざ行かなくても、このクレミアでじゃねぇか。
その方があんたらも安心だろ?」



 あまりに無責任すぎるケイの発言は、ユーシィを愕然とさせるのに充分すぎた。

 胸に込み上げるのは、悲哀と、同情。
 そして――…怒り。

 ユーシィはきゅっと唇を噛み締め、ケイを睨み付けた。



「貴方、それ本気で言ってるの…?」

「なんだよ、不満なのか?だったら適当に…」

「どうして…っ、どうして適当に決められるの!?
ゼフォムに住む人間全体の命に関わる問題なのよ!
もっとよく考えて!!」



 ――うるさい。

 俺の知った事か。




「…じゃあいっそ、全部滅ぼしてやろうか?
こんなくだらねぇ世界無くなったてっていい」


 ――パンッ!




 左頬に鈍い痛みが走る。

 ケイの頬を思い切り叩いたユーシィは、鋭い視線を送った。




「貴方にとってはくだらない世界かもしれないけれど…。
少なくとも、私にとっては違う」



 そう言った彼女の深海のような蒼い瞳には、うっすらと涙が溜まっていた。




「ユーシィ様、今日はここまでにしましょう」



 ディクセンはユーシィを落ち着かせる為に、部屋の外へ誘導する。

 彼女が完全に退室するまで、ケイは彼女の後姿を静かに睨み付けていた。

 扉を閉める寸前、ディクセンはケイに向き直る。



「今夜、もう一度ゆっくり考えろ。
お前の決断が何万何億という人の命を左右するんだ。
この部屋は好きに使っていいから…」



 それだけを言い残し、扉を閉めた。







 ――ドンッ!!!



 一人部屋に残されたケイは、壁を乱暴に叩く。







 ――…何なんだよ。


 今日いきなり『お前は破滅の使者だから都市を選べ』なんて言われても…。


 『はいそーですか』って納得できる訳ないだろ…。





 未来とか、運命とか、そんな不確かなものに惑わされたくねぇ。


 なのに、俺は――…






「くそ…っ」



 言いようのない気持ちを抱いたまま、ケイはベッドに倒れ込む。

 そして、そのまま眠りについた。






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