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【AA】double ace
真実の言魂






―――――――――





「ケイ!目が覚めた!?」



ゆっくりと瞼を上げると、そこには心配そうに顔を歪めるユーシィの顔があった。

ケイは瞳だけを動かして、辺りを見回す。

どうやらどこかの部屋のベッドに横になっているらしい。



額には冷たい濡れタオル。

その状況を理解すると、ケイは納得した。






「俺…倒れたのか」

「当たり前!ケイ最近ちゃんと寝てないでしょ?
それに知恵熱が出るほど、一体何を考えてたの?」



ユーシィは少し安心した様な表情を浮かべた。

するとケイは額のタオルを手で退かし、ゆっくりと起き上がろうとする。

無理して起き上がろうとするケイを制止しようと、ユーシィは慌てて彼の肩を押した。




「駄目よ、まだ熱下がってないんだから!ディクセンが今、薬を――」


「ユーシィ」





名前を呼んだかと思うと、突然ケイはユーシィの手を握った。

いつになく真剣な表情で見つめられ、ユーシィは心臓を高鳴らせる。

翡翠の瞳で彼女を捉らえたまま、ケイは口を開いた。









「ユーシィは今、幸せか?」


「…え?」




ケイは少し哀しそうな表情で、彼女の答えを待つ。

どこか様子のおかしい彼に動揺しつつも、ユーシィは拒む事が出来なかった。





「し…幸せよ。いきなりどうしたの?」



そう言って笑うユーシィをに、ケイは瞳を伏せて、ゆっくりとその手を離した。







「もう…掟に従うの、やめろよ」


「――っ!!?」




ケイの口から出た意外な言葉に、ユーシィは大きく動揺した。




「知ってたの…?」








ケイには隠していた筈の、自分の秘密。







「ファーヌに聞いたんだ。三つの禁忌の事も、[夢神子]を解放出来るのは俺だけだって事も……」









ケイは、全てを知っていた。






ユーシィは俯いて、暫く沈黙する。

やがて、微かに震えながら口を開いた。








「…私、もう既にを禁忌を犯しているわ。
都市を離れてはならないのに、こんなに遠い所まで来てしまった」






そう言うとユーシィは、突然ケイに向かって柔らかく微笑んだ。

少し悲哀の交ざった、笑顔。





「ねぇ…どうして幸せか、なんて聞いたの?」

「だって…あんな掟に縛られて生きるの、辛くないのか?」

「そうね…辛いわ」



ユーシィはケイに背を向け、窓に近付いた。

そっと窓際に手を置き、空を見上げる。

外の寒空は、濁った灰色をいていた。





「確かに…[夢神子]の力を持ったばかりの頃は『どうして私が』とか『こんな掟、酷すぎる』とか……そんな事ばっかり思ってた」

















クレミアが

【ゼフォム】が嫌いだった。






[夢神子]という名の生贄を

縛って
犠牲にして


繁栄する世界なんて、消えてしまえばいい。








だから私は…


自由を求めて

空飛ぶ鳥に憧れて



私もいつかの日か




あの空の向こうへ
あのゲートの向こうへ…





だけど――…










「心の底では嫌いだった世界だけど…私はここで産まれてここで育って、ここで生きている。
この世界にいる限り、私はゼフォムを捨てられないの…。
やっぱり…ゼフォムに生きる人達が好きだから」


「だからって!!自分の命を削って世界の為に尽くすって言うのか!?
そんなの間違ってるっ!!」





窓の外を見つめるユーシィの背中に向かって、ケイは怒鳴り散らした。

ユーシィはゆっくりと、ケイの方に振り向く。








「誰に何を言われようと、もう私の人生は定められているの。
誰にも変えることの出来ない運命。
――たとえ…【カイザー】でも」












本当はね


【カイザー】である貴方に、少しだけ期待してた。






普通の人間とは違う貴方なら、私達[夢神子]の運命を変えてくれるんじゃないかって…。







貴方も悩み苦しむ、普通の人間なのに…―――












「…ごめんね、ケイ」





そう言ったユーシィの表情は真剣そのもので。

ケイはそれ以上、何も言わなかった。






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あきゅろす。
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