【AA】double ace 統率という名の犠牲 ―――――――― 先程のファーヌの言葉が頭に響く。 ケイは困惑しつつ、口を開いた。 「伴侶を持ってはならないって…つまり『結婚するな』って事か…?」 「違うよ。『異性を好きになるな』って事さ」 ファーヌは辛そうに瞳を伏せる。 それもその筈。 彼女もその掟に縛られている一人なのだ。 「これら三つの掟は最大の禁忌とされているんだ。 [夢神子]が片時も都市の繁栄を忘れない為に、常に世界を想う心を失わない様に…掟で定められているんだよ」 「そんな…そんなの!」 ケイは突然、声を荒げてファーヌに叫んだ。 「そんなの間違ってる!!自分の幸せを捨ててまで、死ぬまで都市の繁栄に尽くすなんて…っ。 そんなのは統率者なんかじゃねぇよ!! ただの生贄だ!!!」 「口を慎みな!!!!」 ファーヌの怒鳴り声に、ケイは瞳を見開いた。 彼女のその鋭い瞳は、うっすらと涙で潤んでいる。 ファーヌは強く拳を握り、唇をぎゅっと噛み締める。 そして桃色に輝く瞳を携え、真直ぐにケイを見据えた。 「それでも都市の繁栄を願わずにはいられないんだ。…[夢神子]は自分が犠牲になる、なんてこれっぽっちも思わないよ! むしろ…都市の為に死ねる事を誇りに思うさ!!」 迷いのない、答。 その強い意志を前にケイは愕然とし、一歩後ずさる。 「…[夢神子]になる人間はそう感じる奴だけだよ。 アタシもあのお嬢ちゃんも、他の都市の[夢神子]も」 「そんなの…変だ」 まだ納得できない様子でケイは小さく反論した。 ファーヌは瞳を細め、ショックを受けるケイにを見て思った。 ――可哀相なボーヤだこと。 「ついでに…話しとくよ」 先程より声を抑えてファーヌは言う。 ケイは顔を上げ、ファーヌの言葉を待った。 「予知夢を見るって事は相当な精神力を消耗するんだ…。 代々[夢神子]になった奴は皆…夢を見る度に体が衰退していって…――長くは生きられないんだよ」 「……―――っ」 ケイは今度こそ言葉を失う。 動揺の所為で身動きが取れないなど、生まれて初めての事だった。 「…どうにも、ならないのか?」 やがて口を開き、絞り出す様な声で言った。 「なぁ…[夢神子]を掟から解き放つ方法は何もないのか!?」 ファーヌは静かに玉座につき、動揺するケイを見据えた。 「…一つだけあるよ。[夢神子]の掟を無効にする方法」 「教えてくれ!!俺…なんだってするからっ!!」 顔を上げ、懇願するケイにファーヌはフッと意味深に笑う。 「ああ、勿論教えるさ。 何しろアンタにしか出来ない事だからね。 【カイザー】のボーヤ…」 ――【カイザー】。 その言葉にケイは反応した。 「まさか…それって…」 「都市を選定しな【カイザー】…。 そうすりゃ選んだ都市の[夢神子]は、力を失って助かるって伝説があるよ」 ケイはその場に腰を下ろす。 もはや、何も言えなくなってしまった。 [前へ][次へ] [戻る] |