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【AA】double ace
奪われたフィロワ




 何とかディクセンを取り返そうとするユーシィに、ファーヌは舌打ちをした。


「引っ張んないでよ!」


 ファーヌが手を振り払った拍子に、ユーシィの体が倒れた。


「きゃ…っ!!」

「ユーシィ!」


 後ろによろけるユーシィを素早く抱きとめたのは、ケイだった。

 今まで傍観していたケイだが、ユーシィに乱暴を働いたことに苛立ちを覚え、彼女を支えながら睨むようにファーヌを見上げた。


「おいっ!いくらなんでも人のフィロワを取るなんて無茶苦茶だぞ!!」

「そ…そうですよっ!
それに貴方も[夢神子]なら、自分のフィロワがいる筈です!!」


 なんとか起き上がったユーシィも、ファーヌに抗議の声を上げた。


「フィロワ…か。
そんなのどこをほつき歩いているか知らないね」


 どこか哀しそうな瞳でファーヌは呟いた。

 けれどそれは本当に一瞬で、すぐに妖しく口の端を吊り上げる。


「マラゲーニャはアタシの都市だ…。
此処では、アタシのルールに従って貰うよ!」


――パチン!


 突然ファーヌが指を鳴らすと、寝殿の扉から黒いスーツに身を包んだ沢山の警備が姿を現した。

 ケイとユーシィは、あっという間に囲まれてしまう。


「ユーシィ様っ!!」


 ファーヌから離れ、ディクセンは駆け寄ろうとした。

 だが傍にいた体格のいい警備によって、素早く取り押さえられてしまう。


「ねぇ【カイザー】のボーヤ…。
アンタまだ都市を見ていないだろ?
[夢神子]のお嬢ちゃんと楽しんでおいでよ」


 腹立たしいほど美しい笑顔で、ヒラヒラと手を振るファーヌ。

 それが合図だったのか、警備達は勢い良くケイとユーシィを出口へと押し出そうとした。


「てめぇ…っ」


――…キィィィン…


 ケイの体に光が集束する。

 瞬時に力を放とうと、ファーヌに掌を向けた。

 その翳されたケイの腕を、ユーシィは慌てて抑える。


「力を使っちゃ駄目!
またガノッサの時みたいになったら…」

「口で言っても分からねえ奴にはこうするしかないだろ!?」



『今の時点でケイを止められるのは……ユーシィ、お前だけなのだ』



 甦るマオの言葉。

 確かにここでケイの力に頼れば、ディクセンを取り戻せるかもしれない。


 けれど…
 それ以上に、この人の手を汚したくない。


 警備によって寝殿の外へと押し流される二人。

 ユーシィはケイの手をきつく掴んだまま、後ろを振り向いた。

 悔やしそうな表情で、遠くからこちらを見るディクセンに、ありったけの大声で叫ぶ。


「ディクセン!!
必ず…必ず向かえに行くから、他の人のフィロワにならないで…っ!!」

「っ、ユーシィ様っ!!」



――…バタン!!!



 そして、寝殿の扉は固く閉ざされた。







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