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私は、今までの経緯を全て話した。人影が部屋を横切り、それは千鶴で、ついて行くと山南さんが薬を…、と。勿論、首を締められた時と、先程の夢の嫌な感覚は、言わなかったけれど。そんな事副長に言っても仕方ないだろうしね。

話し終えると副長は変わらず冷たい瞳のまま私を見据えた。何か、疑われているかのような瞳。私も負けじと土方副長の瞳を見て、問う。




『…あの薬は、一体何ですか?山南総長をあそこまで狂わしてしまう、あの薬は…』

「……あれは、変若水と言ってな。俺達幹部の人間しか知らねぇ。元は西洋から渡来した劇薬なんだそうだ。あの薬を飲むと、馬鹿みたいに強くなりやがる。心臓をやられなけりゃ死なねぇ。…その代わりに、」

『狂う…と?』

「……そうだ。薬を飲んだ連中を“新撰組”と呼んでいる」




副長の瞳は寂しそうに揺らいだ。きっと、山南総長が気になるんだ。…薬を飲んで狂ってしまったから。

私はなにも言えずに俯いた。少しずつ思い出す、先程の参事。目に焼き付いて離れない、私の首を絞めた総長。あの紅蓮の瞳─…

…怖かった。山南総長も、勿論怖かったけれど…私が怖かったのは、あの声だ。訳も分からなく頭に響く声。あれは一体、何だったのだろうか…。

二人の間に沈黙が流れた。土方副長は苦渋に満ちた表情をしていて、何か言おうとする気配はない。私は、きっと大丈夫ですよ、と何の根拠もない気休めの台詞しか言う事ができなかった。副長は微かに目を細めた。




「あの人の精神が薬に勝つよう、今は賭けるしかねぇな……」

『そう、ですね…』




長い夜が明けるのを、私達はただ待つしかできなかった─。










新選組と新撰組
(私はこの夜、新選組の秘密に触れてしまった)


20100703

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