『No pain,no gain』
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「だね」
『とにかく!』
気分を切り替えるようにそう言った蘭は、
梅雨知らずの青空を思わせるような声色でコナンに告げた。
『くれぐれもお父さんによろしくね?
何かあったら、すぐに電話してね』
「うん。…蘭、ねえちゃんも…大会、頑張ってね」
蘭も頑張れよ、と言いかけて、
慌てて言葉を選び、コナンらしく蘭に声を返した。
『ありがと。…じゃ、またね』
耳朶に残る
甘く香るような乙女の声。
荒れ地に佇む自分の心を潤すような、
一服の清涼剤――…
さっきまでさんざんコナンの心を苛(さいな)んでいた暗い影は、
どこかへ霧散してしまったようだった。
(…蘭…)
決して傍にいなくても、静かに…
ただ、穏やかに、
心を休ませてくれるひと。
元の姿、工藤新一の姿が見えなくとも、
互いに求め、そして、無意識に手を伸ばして惹かれ合うのも、
そんな存在だと認めているからこそ、こうしてほかに逸れることなく、
彼女の傍にずっといられるのかもしれない。
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