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生徒会室を占拠して(慧)


 
 生徒会室。
 その名の通り、生徒会役員が滞りなく
 業務運営を行うための部屋、である。
 故に生徒会長である方丈慧がこの部屋
 を訪れたのもごく当たり前のことで、
 寧ろこの部屋に置ける異分子は、
 目の前の机に俯せになり気持ち良さ
 そうに眠る新任教師の方であろう。

 『全く…ここを何処だと思ってるん
 だ。』

 いつも以上に眉間に深くシワを刻み
 つつも声には出さない。
 眠る教師の下敷きにはプリント用紙。
 そして傍らには手作りと思われる
 お菓子の包みが一つ。
 昨晩A4用の補習プリントを作った
 だけでなく、何やら差し入れまで
 用意してきたようだ。
 大方、自分と補習の打ち合わせをと
 ここに来たものの、待ってる間に
 力尽きた。容易に状況証拠から推測
 することが出来る。
 が……。

 極力足音を起てないよう彼女に近付く。
 彼女を起こしたくなかった。
 誰かの為にだけ頑張って、自分を
 顧みないこの人の為に。
 そんな先生は只今夢の真っ只中らしく
 何やら一人で百面相を楽しんでいる
 ようだ。
 普段であったなら、馬鹿面だの阿呆面だ
 の暴言のオンパレードになるところだろ
 うが、今は自然と笑みが零れる。

 「…何が、そこまでお前を頑張らせ
 るんだろうな。」

 誰に問うわけでなく、ただの独り言
 だった。
 いや、独り言のはず、だった。

 「…ん〜」

 もぞもぞと身じろぎした彼女を
 起こしてしまったかと心配して
 見つめれば、

 それはそれは
 まるで甘い甘い
 砂糖菓子のような
 ほんわり、温かくなるような、
 そんな笑みを浮かべて。

 「…け、いくん、頑張ろお……ね…」

 等とタイミングよろしく。
 呟いてくれるものだから。

 「〜っ!!な……なっ何っ…を」

 こちらもまた
 盛大なる照れと動揺と
 呼吸困難をもってして
 どうにか部屋から脱出することに
 成功した。
 許容量以上の出来事に身体がフリーズ
 しなかったのは、今だバクバクと
 鳴り止まない心臓のお陰かもしれない。

 「な、んなんだ、あいつは…」

 生徒会室の扉に寄り掛かり、
 ため息混じりに思わず呟く。

 解らない。
 自分のすることに刃向かう人間。
 かと思えば、今のような事をいったり
 する。
 先生の気持ちが、解らない。
 が、何よりこんなことで動揺する
 自分が1番解らない。

 「どうしたんだ、僕は……」
 「うん、どうしちゃったの?慧。」
 「うわっ!な、那智!?」

 弟の声に慌てて顔をあげれば役員達が
 不思議そうにこちらを見ていた。
 それもそうだ。
 生徒会長が廊下に立っていれば
 何事かと思うだろう。

 「そろそろ会議の時間だよね〜って
 来たところ。で?何かあったの?」
 「いや…」

 何でもない、と言いかけたところで、
 ふと、扉の向こうで眠る彼女の顔が
 脳裏に浮かぶ。
 そして…

 「…今日は生徒会室が使用できなく
 なった。」
 「へ?何で?」
 「初耳ですね。学園から連絡は
 来てなかった用ですが緊態ですか?」
 「き、緊急だ。なので今日は別室を
 借りて会議を行う。」

 行くぞ、と一同を促す。

 「…へ〜んなの。ま、慧がそう言う
 なら信じるけどね〜」
 「何か言ったか?那智。」
 「な〜んにも?早く行こう、兄さん」

 那智に背を押され、生徒会室から
 離れていく。

 何故こんな事を言ってしまったのか。
 彼女の寝顔を見られなかった事に、
 安堵するのか、とか。
 気になる事は多々あるけれど。
 今はまだ、部屋の中の眠り姫と共に、
 扉の中に、閉じ込めて…。





 
    


 『な、陽祐。さっきの慧のアレ、
 何だと思う?』
 『九割九分、先生絡みの何か、
 でしょうね。』
 『だよな〜。慧ってホント、
 嘘付けないよね。』




 慧小説。
 ばれてるよ〜〜なお話(え)

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あきゅろす。
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