狼少年とうさぎ
三匹の犬と羊
時はいつも勝手に過ぎる
頭を過ぎるのは過ぎた幾年月
心を過ぎるのは午後のまどろみ
その中で見た君の穏やかな吐息
それから、
俺だけの秘密
そして今俺は
歌うよ
君が知るはずの無い人達の傍で
[三匹の犬と羊]
「やっぱ良いベーシストは欲しいのなー」
「アルコの曲なら完璧とか言っておいて、結局たいしたことなかったじゃねぇか!!ったく…良い迷惑でしたよね十代目!!」
「…」
昨日のライブが余程不満だったらしい二人が各々ぼやく。
獄寺はともかく、普段はそうそう文句を口にしない山本が思わずそう言うくらいだから、それはもう。
「確かに酷かったよねぇ。…あ、ツナ兄頬っぺたにご飯粒付いてる」
昨日に思いを馳せていたせいで上の空だったツナの頬に、ぺたりと湿った感覚が当たった。
「っ!!フゥ太…っ」
「てめ、この餓鬼…っ!!!」
「あはははは。…抜け駆けか?」
三人でバンドを組もうと言った日。
足りなかったギターとベースのメンバー募集の相談も兼ねて、とりあえずリボーンに相談すると、「調度一人居る」と言って、その日のうちに少年を紹介された。
その時12歳だった少年はギターケースを肩に掛けていた。
年下の少年はツナより細く小さく、正直ギターケースに背負われてた気がしないでもなかったが。(その後順調に成長期に突入した少年に、未だ変声期後かも怪しいヴォーカルはさっさと体格差を逆転された)
カウンター席に座ったツナと、その傍に立った二人。カウンターの中のリボーン。
四人と対面する様に立った少年は、しかしたった一人だけに目を合わせて名乗った。
『初めまして。フゥ太です。こんなに近くでお会い出来て嬉しいです、ツナさん』
薄いボーダー柄の布をマフラーの様に巻いて、恐らく天然であろう茶色の髪を揺らしながら、ツナ以外を対象から除外した挨拶をした、それはそれは可愛らしい、仔犬の様な少年は、話によればリボーン仕込みの凄腕ギタリスト。
ということで、何だかんだ実力が解らない獄寺、山本と共に、開店前の店内で一曲演奏させてみた。
結果は上々、山本はリボーンが思わず「天才だな」と口笛を吹く程で、とても初心者(仮)には思えなかったし、獄寺とフゥ太に至っては今すぐメジャーデビューさせたいくらいだった。
―と。
そこまでは順調だったのだ。
むしろ順調過ぎた。
最後に残ったベーシストだけが、このバンドの唯一にして最大のネックなのだ。
フゥ太を紹介してもらった時点ではリボーンにもベーシストの心当たりが無く、とりあえず宣伝のために一度リボーンが入ってライブをやった。
その最後にベーシスト募集の旨を伝えると多くのファンが名乗りを上げて来た。
しかし、他のバンドに入っている人間は引き抜きたくないからと丁重に断り残ったのは、こう言ってはなんだが微妙なレベルのただのファンだけ。
下手ではないが、元々ハイレベルだった獄寺やフゥ太、ライブを重ねる度に腕を上げる山本の中にあっては、他のファンからも良くは思われず、結局ベーシストは(仮)が取れないまま即日脱退、メンバーには穴が空いたままなのだ。
「でもほんと…ちゃんとしたベーシストは欲しいよねぇ…」
僕ベースもやれるけどギターが本業だし。とフゥ太もため息を吐く。
「でも、皆と並ぶくらい上手い人はたいていどこか別のバンドのメンバーだしね…」
「生半可な奴だったら十代目のファンが黙っちゃいませんよ」
一番黙っちゃいられないのは自分だろう銀髪ワンコが神妙な顔つきで頷く。
そんな中、発言したのはメンバー一社交的な人気者だった。
「………あ」
「ぇ?」
「いる…いや、いない………いる……………やっぱいない?」
「は?武にぃ?」
「どうしたの山本?」
彼にしては珍しくうむうむ唸りながら、いる、いややっぱりいないと繰り返す。
「…山本?」
「………いや、やっぱ駄目だわ」
「…ぉい、さっきから言ってることが本気で意味不明だぞ」
「あー悪い悪い、ちょっと前に聞いた噂思い出してたんだけどやっぱ無理そう。交渉するのも危ねぇし、他捜す方がまだ確率高いのな」
苦笑して山本は話を終わらせた。
山本を疑うつもりは無いし、また暫くはライブの度にベーシストを替えて試すことになるかも知れない。
しかし…
交渉するだけで危ないベーシストって何だ…
キーンコーンカーン…
平凡な鐘の音が昼休みの終了を知らせる。
「やっば!!次数学だよ!!急ごうっ!!!」
広げていた昼食を片付け、バタバタと階段に向かう。
俺の荷物まで持とうとする獄寺君も
肩を組もうとしてくる山本も
山本と俺の間から顔を出すフゥ太も
俺も。
ただ雲が流れるだけの空模様等気にも掛けない
から
気付きもしない。
「…煩い奴ら…」
犬を手なずけた給水塔で、黒猫が欠伸をした。
なんて。
Three dogs, sheep, and sleepy cats.
You whom I miss are not. It is us of yesterday.
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