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短編小説
導之花〜シルベノハナ

 人は脆い生き物だ。
 惑い、悩み、苦しみ…
 自暴自棄になる。
 人はその漢字のように、支えあわねば生きてゆけないものなのだろう。
 野生の動物から見たら、人間はなんて情けない生き物なのだろう、と思うに違いない。
 けれど、ワタシはそんな人間を愛しく思う。
 神から与えられたこの不死の命で、ワタシはあなたがたの導となりましょう。
 
 暗闇にたった一つ照らす白のワタシ。何百もの白の花をつけて花穂を長く垂らし、甘い香りを漂わせながらその存在をアピールする。
 ワタシはここにいるよ、と言葉にできないのが少々もどかしい。
 
 「こ、ここはどこ」

 怯える子供が一人やってきた。今日もまた人間は惑い、悩み、ここへやってくる。

 ーここは、地獄に似て非なる世界だよ。

 「おうちに帰りたい」

 ー君が心から願うなら、すぐ帰れる。

 「でも、パパもママも嫌い。だって、私がいなくてもいいんだもん」

 −そんなことないよ

 「パパもママも私が嫌いなんだよ。だから私もパパとママが嫌い」

 ーそんな悲しいこと、いわないで

 何一つ伝わらない言葉。
 何一つ通じない気持ち。
 どうしたらいい…
 どうしたら

 ふと雫がワタシの花びらを濡らす。雨でなく、涙だ。ワタシはいったいどれほどの涙という名の雨を浴びただろう。どれほどの人間が涙しただろう。

 あぁ、なかないで…

 ワタシは甘い香りで彼女を包み込む。

 しばらくすると、女の子は消えていった。
 元の世界へ戻っていったのだ。

 人間は本当に脆い生き物だ。
 ガラスのように繊細で、傷つきやすい。
 でも、だからワタシは人間が好きだ。
 傷ついた分だけ綺麗になる心を見ることが、ワタシのささやかな幸せ。
 だからこそワタシは、ワタシの幸せと、人間の幸せを守るために、日の当たらないこの暗闇で咲き続けるでしょう。
 
 人間の……いいえ。あなたの、導となるために。



 


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