BLEACH(京楽×浮竹、海燕×浮竹、白哉×浮竹)
海燕の死(原作沿い 海燕の死直後)


海燕が死んだ


俺は、


いったいお前に何をしてやれただろうーー・・





海燕の最期の瞬間、その場にいたのは俺と朽木

刀で胸を貫かれて喋ることも苦しいはずなのに、海燕は俺と朽木に言葉を残した

「隊長、ありがとうございました。俺を戦わせてくれて・・・」

俺はそんな海燕にああ、としか答えることができなかった

もっと他にかける言葉はあったはずだ

だが、何も言えなかった



「海燕殿ーーー・・!!」



朽木の心にも大きな傷を残してしまった

(俺があの時、海燕を止められてさえいれば・・・!)

悔やんでも悔やみきれない

だが、無情にも海燕の身体は霊子へと戻りかけている

早急に動かなければならない

「朽木、俺は今から総隊長にこのことを報告に行く。すまないが、お前は海燕の遺体を志波家へ運び事情を説明してきてくれ」

「・・・分かりました」

生気を失った目で海燕の遺体を抱えた朽木が歩き出す

本来なら志波家への報告を朽木に行かせるなどさせたくはなかった

だが隊長として自分が為すべきことは別にある

「朽木、すまない・・・」

浮竹も状況の報告をするため、瞬歩で元柳斎のいる一番隊隊舎へ向かおうとする

だが途中で酷い吐き気に襲われ思わず足を止めた

「うぐっ・・・!ゲホッ!ゴホッ、ゴホッ・・・」

その場に吐き出されたのは大量の真っ赤な血の塊

ふらりと体勢を崩しかけるが、その背を誰かが抱き止めた

振り返ると支えていたのは京楽だった

「浮竹!?どうしたの!?」

「京、楽・・・」

力が抜けて京楽にしがみつくように倒れ込む

「ちょっ、浮竹!」

「すまない、・・・少しだけ・・・」

「このまま四番隊に運ぶよ?」

京楽の言葉に浮竹は首を振る

「総隊長への報告が先だ」

「何があったの?」

「海燕が・・・死んだ」

浮竹の状態からただ事ではないと思っていたが、想像していたより事態は深刻だった

「とにかく、このままじゃ山じいんトコ行けないでしょ、一度雨乾堂に戻ろう」





十三番隊舎は酷い有様だった

ところどころ隊員と見られる死体が転がっており、血が色んなところに飛び散っている

事後処理をしていたであろう清音が浮竹の姿を見つけて駆け寄ってきた

「浮竹隊長!どうされたんですか!?」

「清音、・・・海燕が・・・・・・死んだ」

「そんなっ・・・!!」

そう告げられた清音は驚きのあまり言葉を失った

「清音ちゃん、話は後で。悪いけど水と手ぬぐいを持ってきてくれるかな?」

だが掛けられた言葉にハッとして目の前の京楽と浮竹を見る

「は、はいっ!分かりました」

清音が走って行くのを浮竹はただ呆然と見ていた





雨乾堂に入ると京楽は手早く着替えを用意し、血で汚れた服を脱ぐように言う

浮竹は感情を一切押し殺した表情で言われた通り着替えを済ませた

京楽が濡らした手ぬぐいで血の付いた口元を拭っている間も、浮竹はされるがまま一言も言葉を発さなかった

「浮竹、とりあえず口濯いで、水飲んで」

そう言って差し出されたコップを受け取る時になって初めて、京楽がそこにいることを認識したように浮竹の目が焦点を結ぶ

「山じいんとこ、報告行くんでしょ?僕も一緒に行くよ」

「・・・ああ。ありがとう、京楽」





「山本総隊長殿。十三番隊浮竹隊長が至急報告を、と申しております」

部下にそう告げられた元柳斎は分かった、とだけ答える

「入れ」

「失礼します」

元柳斎が入室を許可すると浮竹は京楽に肩を抱かれ支えられながら入ってきた

「何があった?」

浮竹はことの顛末を話し、副官が死んだことを告げた

「そうか」

報告を終えると浮竹はその場でまた激しく咳き込み出した

「春水、十四郎を早く四番隊に連れてってやれ」

元柳斎の言葉に京楽は頷くが、浮竹はそれを拒んだ

「・・・俺は大丈夫だ、・・・ゴホッ・・・」

「大丈夫って、そんな状態で何言ってるの」

「三席も副官も亡くなり、部下だってかなりの数を失った。今、俺が抜けるわけには・・・ハァハァ・・・」

「十四郎、今はお主も身体を休める時じゃて」

頑なな浮竹に元柳斎までもが諭すように言う

「っ・・・元柳斎先生・・・・・・分かり、ました」

浮竹が観念したように呟いたのを聞くと京楽は瞬歩で四番隊へと向かった





「ご気分はどうですか?」

点滴に繋がれ布団に横たわる浮竹に卯ノ花が声をかけるが、浮竹は一言大丈夫です、と答えるだけで黙ってしまった

「話は聞きました。お辛いでしょうが、仕方のないことです。貴方のせいではありません。今はまずご自分の身体のことを大切になさって下さい」

卯ノ花の言葉にも浮竹ははい、と力なく答えるだけだった





数日後、未だ十三番隊は事後処理に追われていた

事件の報告書、亡くなった隊員たちの家族への連絡と弔い、今後の隊の立て直し、やることは山積みだ

通常の業務は元柳斎の計らいもあり他隊に振り分けられたが、人手不足の今、隊員たちは皆寝る間も惜しんで仕事に明け暮れていた

あれから浮竹は高熱を出し寝込んでいる

だが、清音が仕事の合間に浮竹の様子を見に行こうと立ち上がった時、ちょうど隊舎の扉が開いて浮竹が顔を出した

「浮竹隊長!?何やってるんですか!寝てなきゃ駄目じゃないですか!」

熱があり寝ているはずの浮竹が隊服を着て十三番隊舎に来たことに他の隊員達も驚いていた

「いや、だいぶ熱も下がったから少し仕事をしようと思ってな、」

浮竹の言葉に清音は頭を抱える

「浮竹隊長、お気持ちは嬉しいですが、それで倒れられたら困ります!お部屋にお戻り下さい」

「じゃあ、せめて書類を持って行くだけ・・・」

「隊長!」

ピシャリという清音に浮竹は少し困ったような笑みを浮べる

「何かしてないと、な・・・」

浮竹の気持ちを察した清音は諦めたようにわざと大きくため息をついてみせる

「でしたら、無理は絶対なさらないで下さい」

「ああ、分かった」

確認が必要ないくつかの書類を手に持ち浮竹は一人部屋へと戻っていった

その後ろ姿はとても寂しそうで、清音は唇を噛みしめるのだった






部屋に戻った浮竹は持ち帰った書類に順に目を通していく

事件の報告書だ

改めてあの日の光景が脳裏に浮かぶ

「ぐっ・・・」

突然襲ってきた吐き気をなんとか堪え、浮竹は深く息をついた

(少し、熱が上がってきたな・・・)

体調が悪化していることを感じ、横になろうと立ち上がった瞬間ぐらりと視界が揺れた

不味い、と思った時にはすでに床に倒れ込んでいて、そのまま意識が遠くなる





倒れている浮竹を見つけたのは清音だった

雨乾堂に夕食を運びに来た清音だったが、外から声をかけても返事がない

「隊長?失礼しますね・・・」

中に入ろうと襖を開けると目に飛び込んできたのは畳の上に倒れている浮竹の姿だった

「隊長!?しっかりしてください!隊長!!」

肩を揺するが浮竹の反応は無く身体もかなり熱い

「隊長!!」

清音は急いで四番隊に連絡をした





しばらくして目が覚めた浮竹は薄明かりの中、隣に座る京楽を見つけて目を細めた

「ずっとついててくれたのか・・・?」

君が倒れたって聞いたから心配になってね、と京楽は優しく言う

「全く、君が無茶するから清音ちゃん泣いてたじゃない」



京楽は先程の清音の様子を思い出す

「こんな状態で無理して倒れて・・・隊長にまで何かあったら、私・・・」

普段明るい彼女が浮竹の傍らで涙を流しながら、その手を握っている姿に、京楽もどう言葉をかけていいか分からなかった



「そうか、・・・すまなかった・・・」

「僕より彼女に謝ってやんなさい」

「ああ、」

「浮竹、君は何でも一人で抱えこもうとするから心配になる」

「すまない・・・」

「謝ってばっかりだね」

京楽の言葉に何も言い返せなかった

「まだ熱がだいぶ高いから、もう少し眠ったほうがいい」

「・・・眠れないんだ、・・・眠ったと思ってもすぐにうなされて起きる・・・」

明日にでも卯ノ花隊長に睡眠薬を調合してもらうよ、と浮竹は力なく笑った

「うーん、あんまりオススメはしないけど、寝ないと体力回復しないからねぇ」

「京楽、とりあえず今日はもう少しだけこのまま手を握っててくれないか?」

ポツリと呟かれた言葉に京楽は優しく笑みを浮かべた

「うん、いいよ」



普段あまり見せない甘えを見せる君を愛おしいと思う

心の傷を抱えながらも、君はそれを押し込めて隊長という役目をこなしていくんだろう

ならばせめて、僕が君のその傷付いた心を少しでも癒せるように



京楽は浮竹の手を握りながら安らかな眠りが訪れる様に、と祈りを込めたーーー・・





fin.



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あきゅろす。
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