WILD ADAPTER(久保田×時任)
いつかまた


どうしてこんなことになったんだーーー?

力なく横たわる久保ちゃんの身体

真っ赤に染まった獣の手

ああ、

そうか、

俺・・・





その日もいつもの通り二人で近くのゲーセンに出掛け、飯を食べて帰るはずだった

それが、途中でヤクザに追いかけられる羽目になってそれどころじゃなくなった

「時任、こっち」

「おう!」

狭い路地を走り抜けながら追っ手をかわす

「ふぅ、何とか逃げ切れたかな?」

「っ、はぁはぁ・・・あいつら、もう追って来ないか?」

「多分ね。はぁ・・・流石にちょっと疲れたかも」

「俺、腹減ったー」

ご飯を食べる前に鬼ごっこが始まってしまったので、二人ともまだ何も食べていなかった

「そうだね、とりあえずどこかでご飯食べようか」

「だな!」

辺りを警戒しながらも久保田と時任はどこかでお腹を満たすため、飲食店を探して歩いた

「久保ちゃんあれ!」

突然、久保田の名前を呼んで駆け出した時任の視線の先には小さな女の子がいて、ガラの悪いヤクザ風の男達に絡まれていた

「オイ、嬢ちゃん。ぶつかっておいて謝る事もできねぇのか?ああ!?」

凄む男達の剣幕に完全に飲まれてしまっている女の子はガタガタと震えることしかできなかった

「お前ら何やってんだよ!」

久保田が止める間もなく時任は男たちに向かっていった

久保田も加勢しようと一歩踏み出したのだが、男たちの仲間の一人が拳銃で時任を狙っているのがチラリと見えた

「時任!!」

咄嗟にその身を呈して庇った久保田は、胸を銃弾で撃たれ時任の足元に倒れ込んだ

「久保、ちゃん・・・?」

倒れた久保田から流れる血を見て眼の前が真っ白になった時任は獣の咆哮のような叫び声を上げた





辛うじて意識を取り戻した久保田があたりを見渡すと正気を失い獣になったかのような時任の姿があった

「時任」

痛みを堪えて立ち上がり久保田は時任の名前を呼ぶ

だが今の時任には久保田の姿も声も分からなくなっていた

久保田はそっと目を閉じると時任の笑った顔を思い浮かべて小さく息をつく

そして微笑みながらゆっくりと時任に近づいた

近づいてくる久保田に対し、時任は低い唸り声を上げながら睨み付けている

その目は野生の獣そのままで、一瞬だけ久保田は立ち止まった

「時任・・・」

だが久保田は再び歩みを進めると、そのまま時任に向かって両手を差し伸べ、その身体をふわりと抱きしめた

それと同時に時任の右手が久保田の腹を貫く

グサッーー!!!

「っ・・・時任、・・・戻っておいで」

だが久保田はそれに構わず、優しく抱きしめながら時任の名前を呼んだ





ーーーーー



暗い、寒い、怖い、

助けて、誰か、

俺をここから出してーー・・


『 』


誰だ?

この声、聞き覚えがある

暖かくて

安心する


『 時任 』


時任って、誰?

俺のこと?

そっか、俺、

時任って、俺なんだ


『 時任 』


俺を呼ぶのは、

この名前を俺に付けたのは、

俺の大切な奴、

ずっと一緒にいたい奴

大好きな、そう、

大好きな、『久保ちゃん』だ



久保ちゃんが俺を呼ぶなら、

俺を必要としてくれるなら、

俺は久保ちゃんのところに帰る、

俺の居場所は、

久保ちゃんの隣だけだから



ーーーーー



「・・・っ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

呼吸がまともに出来ない、

痛みには強いはずだったが、流石にこれはその範疇を越えている

内蔵がせりあがってくる感覚に思わず咳き込むと、口からゴボリと大量の血が吐き出された

(この分じゃ、もうほとんど時間残って無い、かな)

沈みかける意識をなんとか繋ぎ止め、残っている僅かな力で時任の身体を抱きしめた

「・・・・・・時、・・・任・・・」

正気に戻ることを信じて名前を呼び続ける

すると時任の口から小さく声が漏れた

「・・・く、・・・久保・・・ちゃ・・・」

少しずつ瞳に光が宿る

そして時任はようやくその目に久保田を映した

「・・・久保、・・・ちゃん・・・?」

ぼんやりとした意識のままに時任が名前を呼ぶと、久保田は頷いてその身体をぎゅっと抱き締める

「・・・おかえり、・・・時任」

そして、時任を抱いたまま柔らかく微笑むとそのままずるりと崩れ落ちた

「久保ちゃん!!?」

咄嗟に身体を支えるため手を差し出そうとした時任だったが、自らの右腕を見て愕然とする

「っ!!!」

その腕は紛れもなく久保田の身体を貫いていたのだった

「・・・何、で・・・そんな・・・っ!」

慌てて腕を抜こうとする時任を久保田がやんわりと止めた

「っ・・・抜か、・・・ない・・・で・・・」

おそらく今腕を抜けば大量の血が吹き出して即、死に至るだろう

あとほんの僅かでもいい、時任と話がしたかった

だが、すでに久保田は自分では身体を支えることも出来なくなっていた

「俺が・・・この手で、久保ちゃんを・・・?」

時任を落ち着かせるように大丈夫だから、と声をかけるが、おそらくそう長くはもたないだろう

久保田は最後の力を振り絞り、自らの身体を起こすと時任の頬に手を添えた

「・・・時、任・・・お前の、・・・せいじゃ・・・ない、から・・・」

「久保、ちゃん・・・俺・・・」

「・・・ちゃんと・・・戻ってくるって・・・信じて、た」

微笑む久保田の表情は優しくて、涙が溢れた

「っ・・・久保ちゃん・・・」

「・・・時・・・任・・・」

最後に愛しそうにその名前を呼ぶと、時任の頬に触れていた久保田の手は力を失いぱたりと地面に落ちた

「久保、ちゃん・・・?」

時任は目を閉じたまま動かない身体を揺する

「なぁ、・・・久保ちゃん・・・目開けてくれよ・・・っ、頼むから・・・!」

だが二度と久保田の目が時任を映すことはない

それが分かっていても時任はその身体から離れることは出来なかった

「久保ちゃん、ごめん。俺もすぐ行くから」

力を失った久保田の身体を抱きしめると、時任は獣の爪を自らの首筋に当てそのまま力一杯引き裂いた

裂けた首筋から勢いよく血が吹き出し、辺りを真っ赤に染めていく

「久保・・・ちゃ・・・」

流れ出た血が床に血溜まりを作るのを眺めながら時任はその場に倒れ込んだ





久保ちゃんーーー

俺を見つけてくれてありがとな、

俺に名前をくれて、そばにいてくれてありがとう、

けどやっぱ久保ちゃんがいない世界なんて無理だから

ごめん。

でもきっと許してくれるよな?

いつか、生まれ変わったら

俺はまた久保ちゃんと一緒に居たい

今度は俺がお前を見つけるから、絶対。

そしたらまた二人で一緒にいようぜ?

約束だからなーーー・・





fin.



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