鋼の錬金術師(ロイ×エド)
鋼の錬金術師の後見人

ロイは話があると言うワイズ准将の元を訪れていた


部屋に入るとワイズはロイに唐突にこう言った


「鋼の錬金術師を私に預けてみないかね?」


「…鋼のを、ですか?」


ロイはどう返答するか迷った


「そうだ。彼は実に素晴らしい錬金術の才能を持っているそうだな」


「ええ、それはまぁ…」


ロイにはこのワイズの魂胆が分かっていた


錬金術師としては一流のエドワードを自分が預かれば、その手柄は自分のものとなり株も上がる


「彼を私に預けるならそれなりの礼はしよう。だが、断ると言うなら…賢い君のことだ、分かるだろう?」


これでは脅迫だ。どちらが得策か考えるまでも無い


だが、ロイは迷っていた


「確かに錬金術の才能はありますが、彼はまだ子供です。態度も言葉遣いもまるでなっていない。それに行く先々で厄介なことに首を突っ込んでは問題を起こしています。それでは准将の気分を害すことに成りかねませんが…」


「まぁ、それはそれで躾のし甲斐があるというものだ。だが、彼は君には懐いてるみたいじゃないか」


「…私に、ですか?准将の買い被りですよ。あれは野性のノラ猫と一緒です、下手に手を出せば噛み付かれかねません」


ピリピリとした空気の中、お互いに腹の探り合いをする


「まぁ、とにかく、今すぐでなくていい。だが、いい返事を期待しているよ、マスタング大佐」


ワイズはロイの肩に手を置いて、ニタリと笑みを浮かべた







「鋼の、話があるんだが少しいいか?」


ロイは丁度しばらくこっちに滞在することになっていたエドワードを司令部まで呼び出した


「んで、話って何だよ?」


司令室のソファーに我が物顔で腰を降ろすエドワードに苦笑を漏らしながらロイは口を開いた


「実は、ワイズ准将が君の後見人になりたいと言ってきてね…」


「は?ワイズってあのオッサン?」


「知っているのか?」


ロイの問いにエドワードは軽く頷く


「何度か私の元に来ないかって誘われた」


「それで君は何と?」


「面倒だから適当にごまかして逃げた」


エドワードのセリフは容易に想像できるもので、ロイはやはりな、と内心ひとりごちた


「だが、今回ははっきり返答せねばなるまい」


「そのワイズって奴の下にいて何か良い事あんの?」


エドワードはちら、とロイを見る


「まぁ、准将にもなれば閲覧できる資料も増えるだろうし、情報も入り安くはなるだろうな」


「そんなの大佐がとっとと准将になっちまえば済む話じゃねぇか」


「随分と簡単に言ってくれるね」


「それとも何?俺が邪魔で厄介払いでもしたくなった?」


そう言ったエドワードの表情を見たロイは小さく笑った


口では生意気な事を言っているくせに、瞳の奥が僅かに揺れていた


まるで捨てられるのを怯える小犬みたいに…


「途中で投げ出すぐらいなら最初から後見人など引き受けたりしないさ。それに、私はこれでも結構君の事を気に入っているんだがね?」


その言葉を聞いて僅かに安堵の表情を見せたエドワードを見て、ロイはワイズに言われたことを思い出した


―「彼は君には随分と懐いているそうじゃないか」


あの時はそんな事は無いと思っていたが、こうしてみると少しは私に信頼を寄せてくれているのかという気にもなる


「まぁ、とにかく後見人をどうするかは君が決めることだ。どうしたいか決まったら言いに来なさい」


「…考えとく」


本当はすぐにでも「後見人はアンタがいい」と言いたかった


けどそうしなかったのは、ほんの少しの意地のせい


(アンタは俺が誰のとこに行こうが関係ないかも知れないけど、俺は、俺の後見人はやっぱり…)







少しだけもやっとした気持ちを抱えながら司令部の廊下を歩いていると、うしろから声を掛けられた


その声でエドワードには相手が誰だか見当が付いたが、無視をするわけにもいかないため渋々振り返った


(はぁ、やっぱりこいつか…)


その先には機嫌が良さそうにニヤニヤと笑うワイズがいた


「マスタング大佐から話は聞いたかね?」


「…まぁ、一応」


「それで、どうだい?私のところに来てくれるだろう?」


「そのことですが、俺は後見人を変えるつもりは無いですから…」


エドワードの言葉に不思議そうな顔をするワイズ


「マスタング大佐がそれでいいと?」


「アイツは俺の問題だから俺が決めろって」


「ほう、マスタング大佐はあくまでも君の意見を尊重するという訳だ。だが、いいのかね?君の答え一つで彼の立場がどう変わるか…分からん訳じゃ無いだろう?」


「…どういう意味だよ?」


「おや、マスタング大佐から聞いてないのかね?自分の立場より君を優先させるとは…彼は相当、君の事が大事とみえるな」


「ってめぇ!!」


その意味を理解したエドワードは勢いよくワイズの胸倉に掴み掛かる


そのことに苛立ちを露にしたワイズはエドワードの腕を掴み、思いきり頬を叩いた


「マスタングは部下のしつけもろくに出来ん様だな。私のところに来たらそのような事、二度と出来ない様にしつけ直してやるから覚悟するんだな」


叩かれた頬を押さえながらエドワードは悔しさに唇をきつく噛んだ


(くそっ、本当は後見人なんか変えたくない。けど、そうしたら大佐は…)


エドワードは自分に優しく微笑み掛けてくれたロイの顔を思い出していた


(俺のせいでアイツの未来が奪われるようなことだけは絶対にあってはならない。アイツは…大佐は、暗闇の中から俺を救い出してくれたかけがえのない大切な人だから――‥)


「おい、オッサン。アンタの部下になってやるよ。だから大佐には手ぇ出すな」


「そうかそうか、それは懸命な判断だ。楽しみにしているよ、鋼の錬金術師」


ワイズはエドワードの答えに満足した様子でその場を去って行った







次の日の朝、エドワードはロイの執務室を訪れていた


「あのさ、後見人のことだけど…俺、あのワイズって人のとこに行くことにした。昨日色々考えたんだけど、俺はやっぱり早くアルを元の身体に戻してやりたい。アンタには沢山迷惑かけて悪かったと思ってるし、感謝もしてる。けど…」


「鋼の、」


それまで黙って聞いていたロイが口を開いた


「私は君が納得して自分で決めたのならとやかく言うつもりは無い。だが、今の君をこのままあの准将の元へ行かせるわけにはいかない」


そう言った後、ロイはそっとエドワードの頬に触れた


「少し赤くなっているな」


「そっ、それは昨日アルとケンカして…それで…」


自分でもバレバレな嘘だと思ったが、この男はきっとどんな嘘を付いたとしてもその漆黒の瞳でエドワードの気持ちさえ見透かしてしまうのだろう…


ロイは目を閉じて息を一つついたあと、エドワードを見つめた


「鋼の、私は今からワイズ准将のところへ行く。君も来たまえ」


何かの書類が入っているであろう封筒を手に持ち、ロイは部屋を出た







「よく来たね、それで返事は決まったかい?」


ワイズはエドワードの方を見てニヤリと笑った


それは勝利を確信しきった顔


エドワードが否定できないことを知っていてわざと問う


「俺…」


「准将、その件ですが――」


エドワードが口を開きかけたとき、ロイが横から口を挟んだ


「何だ?何かあるのかね?」


「申し訳ありませんが、あなたに鋼のを預けることは出来ません」


ワイズの問いにロイはきっぱりと言い切った


「何、だと?」


まさかロイの口からそんなセリフが出るとは思ってもいなかったワイズは思わず目を丸くする


「大佐…?」


エドワードが見上げてくるが、それをあえて無視してロイは続ける


「私は彼が望むなら、あなたが後見人になっても構わないと思っていました。ですが、これは何です?」


そう言ってロイはまだ赤みが残っているエドワードの頬を触った


「言うことを聞かなければ殴る。それがあなたのやり方ですか?」


「それは、コイツが私に無礼を働いたからだ」


「無礼、ですか」


ロイはちらりとエドワードを見る


「鋼の、何をしたんだ?」


「…このオッサンの胸倉を掴んだ」


「何故?」


「…」


何も言わないエドワードに代わってワイズが口を開いた


「そいつは私が君に圧力をかけたのを知って大層激怒してね。最後は自分が部下になるから君に手を出すな、とまで言ってきた。全く、上手く手懐けたものだ」


「俺は別に手懐けられてなんかいねぇ!コイツが卑怯な手で大佐を…」


「鋼の、少し落ち着きなさい」


ロイに諭されてエドワードは不本意ながらも大人しく口をつぐむ


「彼のしたことは謝ります。ですが、やはり貴方に鋼のを預けることは出来ません」


「っ…貴様、自分の立場が分かっているのか?ただで済むとは思っていまいな?」


ロイはワイズの視線を正面から受け止めた


「大佐っ…俺が行けば済むことだから…!」


「鋼の、君が我慢する必要は無い」


「けどっ!」


「いいから」


ロイは尚も言い募るエドワードを制した


「准将、そういえば少々面白いものを見つけましてね」


ロイは不敵に笑いながら、手に持っていた封筒をワイズに差し出す


「何だ?」


封筒の中身を確かめたワイズの顔色が一瞬で青ざめた


「っ貴様!どうしてこんなものを!?」


「鋼のを預けることになったときのために、あなたが信用に足る人物かを調べさせてもらいました。そしたら次々と面白いことが分かりましてね」


「うわっ!マジかよ…」


エドワードがワイズの手元の書類を見て顔をしかめた


そこには手を拘束され、全裸で喘いでいる少年の姿が何枚も貼られていた


「どうやらあなたは変わった性癖をお持ちの様だ」


「煩い!そんなこと私の勝手だろう!!」


「ええ。ですが、それだけではありません」


ロイの言葉にワイズは封筒の中に入っていたもう一枚の書類を見てまたも絶句する


「そちらはあなたの不正やワイロについての記述です。よく書けているでしょう?」


「私を脅す気か!?」


「先に脅してきたのは准将の方ですよ」


それに言い返すことが出来ず、ワイズは諦めて息をついた


「何が目的だ」


「私や鋼の、それと回りの者に手を出さないこと」


「分かった。言う通りにしよう」


「ありがとうございます」


ロイは頭を下げた


「もう出て行きたまえ」

ワイズは苦虫を噛み潰したような顔をしながらロイとエドワードを部屋から追い出した







お互い執務室に着くまで一言も口を利かなかった

つい先程までいたはずなのに、随分と懐かしい気がするのは気のせいだろうか


「大佐…ありがと、な」

ポツリと呟いたエドワードの言葉に、ロイは振り返って「ああ、」と優しく笑った


いつも通りソファーに座ったエドワードがふとロイの方を見ると、あくびを噛み殺しているのが目に入る


「なあ、ところでアンタあんな資料どこで手に入れたんだよ?」


あれだけのものを1日2日で用意するなど普通は無理だ


「それは教える訳にはいかんな。ただ、私の情報網を甘く見ると…君も分かっているだろう?」


ロイは横目でエドワードをチラリと見た


これまでロイはエドワード達がどこで何をしていたかをことごとく言い当ててきた


つまりはエドワード達の行動全てを把握していたということだ


エドワードはそれを思いだし少しムッとする


「まぁ、そんな顔をするな。お陰で無事に事は済んだんだ」


「何で俺の為にそこまでするんだよ?俺がアイツの元に行けば済んだのに…」


その言葉にロイがピクリと眉を動かした


「鋼の、君は何も成長していない様だな」


「なっ!?んだとテメー!これでも身長は…」


「身体のことを言っているんじゃない」


ロイが怒っていることは分かったが、何に腹を立てているのかがエドワードには分からなかった


「じゃあ何だよ?」


心底分からないといった表情で見上げてくるエドワードにロイは小さくため息をつく


「君は、すぐに自分を犠牲にしようとする。それで守られたとして、相手が喜ぶと思うかい?」


先程自分が言った言葉を思い出してやっと気が付いた


君はいつも自分を犠牲にしようとする――‥


人体錬成に失敗してアルの魂を錬成したとき、

スカーに襲われて自分を殺すのは構わないが、アルだけは助けてくれと言ったとき、


それで守られたとして、相手が喜ぶと思うかい?――‥


そうだ、自分のせいで誰かが傷付いて、それで守られたって嬉しいわけない

自分が一番良く分かってたはずなのに…


「…ごめん」


「分かればいいさ」


項垂れたエドワードの肩に手を置き隣に座る


そしてそのままエドワードの膝に自らの頭を預け、ごろんと横になった


「いきなり何してんだよ///」


「いいじゃないか。あまり寝てないんだ、少し寝かせてくれ」


そう言われればエドワードに反論できる余地は無かった


「…ったくしょーがねぇな、少しだけだぞ?」


そう言ってロイを見たときには、すでにすやすやと安らかな寝息を立てて眠っていた


「大佐…ありがとう」


そのまま顔を見ながらエドワードは小さく笑った




          fin.



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