鋼の錬金術師(ロイ×エド)
女の嫉妬

ここ中央司令部には言わずと知れた“ロイ・マスタング親衛隊”なるものがある


その親衛隊で最近、問題になっていることが一つあった――‥







「ちょっと何なのよ、あのガキは!ロイにあんな態度で…ロイもロイよ、何であんな子供の後見人なんかやってるのよ!」


それは“鋼の錬金術師、エドワード・エルリックがロイ・マスタングのお気に入り”ということだ


今までロイは何事に対しても(特に女性関係は)執着を見せず、女性に対しては来る者拒まず去る者追わずだったのだ


それがことエドワードの事に関しては違った


そして最近は女性と付き合うことも、女遊びもしなくなっていた


「まぁまぁ、落ち着いて下さい、サラさん」


サラと呼ばれたこの女性が親衛隊隊長でもあるサラ・ルーシェだ


「…やっぱり許せないわ」


小さく呟かれた言葉は誰の耳にも届かなかった







「どうした、鋼の。何か気になることでもあるのか?」


最近少し様子がおかしいエドワードに気付いたロイが声をかける


「あっ、いや、対した事じゃ無いんだけどさ最近何か見られてるっていうか…狙われてる気がして」


「何かあったのか!?」


「あー、うん、まぁ色々とな…」


「色々とは何だね?ちゃんと言いたまえ」


エドワードは一瞬迷った後に口を開いた


「資料室で資料読んでたら外から鍵かけられたり、階段で背中押されたり、さっき司令部の外歩いてたら上から植木鉢が落ちてきた…」


「なっ!?何故もっと早く言わない!相手は誰か分かっているのか?」


「分かんない…でも女だったと思う」


「女?まさか…」


ロイの脳裏に一人の女性が浮かんだ


「とにかく私も調べてみるから、君もくれぐれも気を付けるように」


「分かったよ」


そう返事をするとエドワードはそのまま執務室を出て行った







「エドワード・エルリック君よね?ちょっといいかしら?」


そう言ってエドワードを呼び止めたのはサラだった


「俺に何か用?」


「ええ、ちょっと一緒に来てほしいの」


「…いいぜ」







エドワードがサラに着いていくと資料室に着いた


中に入るとサラはガチャリと鍵を掛けた


「アンタだったんだ、俺を狙ってたのって…何でだよ?」


「ロイのことよ!」


「…は?ロイって大佐の?何で俺がアイツのことで狙われなきゃなんねーんだよ」


「とぼけないで!ロイと付き合ってるんでしょ!?全部ばらすわよ!!」


「…」


「前は誰かに夢中になるなんてこと無かった!なのに何であなたなの!?こんな口の悪くて生意気でガキで…ましてや男を好きになるなんてロイもどうかしてるわよ!どんな手でロイをたぶらかしたの?」


「…アンタ大佐のどんなところが好きなんだ?」


「どこって全部よ!優しくて強くて、頭も良いし顔も良い。気が利いてていつも笑顔で毅然としていて…ロイこそ完璧な男性よ」


「完璧、ね…アンタ何にも分かってないな。アイツの上辺だけしか見てない。確かにアイツは何でも出来るし、一見すると完璧に見えるかもしれない…けどアイツだって人間だ、辛いこともあるし悩みもする…全然完璧なんかじゃ無いんだ。アンタそんなことも分かんねぇのかよ」


「うるさいっ!アンタなんかに何が分かるのよ!!」


そう言うや否やサラはカバンに潜ませていたナイフをエドワードに向かって振り上げた







「そこまでだ、サラ!」


ナイフを持っていたサラの手をロイが掴み上げる


「大丈夫だったか、鋼の!怪我は無いか?」


「大丈夫」


「何で…そんな子のどこがいいのよ!」


「サラ、きっと君には分からないだろう…」


そう言うとロイはエドワードの前まで来てその身体を抱きしめた


「ちょっ、大佐!やめろって…」


「すまなかった、私のせいで…」


(大佐、震えてる…?)


「分かったから離れろって、俺はこの通り何ともなかったんだしさ」


「ああ、君が無事で本当に良かった…。サラ、君が私をどう思おうと勝手だが鋼のに手を出すことは許さない」


射抜くような鋭い視線にサラも思わずすくむ


ロイはそのままエドワードを連れて部屋を出ようとした


「アンタさえいなければっ!!」


サラの手には落ちていたナイフが握られており、背中を向けたエドワードに襲い掛かろうとしていた


「鋼の!!」


ロイは咄嗟に自らの身体でエドワードを庇った


「…っ」


ナイフはロイの左脇腹を貫いた


「大佐!!」


「あ…や…そんな…」


サラは地面にへたり込む


「大佐、大丈夫か!?おいアンタ!ボサッとしてねぇで誰か呼んで来て早く大佐を病院に…」


「っ鋼の…ハァハァ…大丈夫だ…医務室に連れてってくれ…」


「バカ言ってんじゃねぇ!アンタ刺されてんだぞ!?」


「…っ…分かっている…だが、これぐらい大した怪我ではない…私が病院に行けば、間違いなく彼女は処罰を受けることになるだろう…今回のことは私にも落ち度がある…だから…くっ」


「…はぁ、分かったよ。おいアンタ、二度とこんな真似すんじゃねぇぞ?」


エドワードの言葉にサラは涙を流しながら頷いた







「ほら、これで傷口隠してろ」


エドワードは自分のコートを脱いでロイに持たせる


「しかしコートに血が…」


「んなこと気にすんな。歩けるか?」


「ああ、大丈夫だ…っ」


ゆっくり歩くロイを支えながらエドワードも歩幅を合わせる


(コイツいつも偉そうに歩くなって思ってたけど、歩くときに俺に合わせてゆっくり歩いてくれてたんだ…)







「鋼の、君は包帯もまともに巻けないのかね」


「しょーがねぇだろ、文句あるなら自分でやれ」


エドワードが巻いた包帯は、ゆるいところがあったと思えば、これでもか、ぐらいにきつく巻いてあるところもありぐちゃぐちゃだった


「もういい、貸しなさい。自分でやる」


ガラッ――‥


「貸してください、私がやります」


いきなりドアが開いたと思えば入って来たのはリザだった


「中尉!?なぜここに…」


「ルーシェ少尉から話は聞きました。大佐、また無茶をなさって…」


そう言いながらリザは手際良く包帯を巻いていく


「とりあえず応急処置は済みました」


「ありがとう中尉」


「大佐、どこに行くおつもりで?」


立ち上がりかけたロイにリザが尋ねる


「今日はこのままお帰り下さい。一般の病院に行く分には何も問題はありませんから。エドワード君、大佐のことお願いね」


「うん、分かった」


「それと大佐、有休が溜まっていますのでこの機会に2、3日休んで下さい。ただし傷を悪化させるようなことはくれぐれも自重して下さいね」


しっかり釘を刺すことも忘れない副官にロイは苦笑を漏らした


それでもこれから2、3日はエドワードと一緒に居られると思うと自然と頬も緩む







「アンタが女の人にあんな怖い顔したとこ初めて見た」


ロイの自室のソファーに並んで座っているとエドワードが呟いた


「そうだな、だが君を危険な目に遭わされて笑っていられるほど、私は心の広い人間では無いよ」


「でも女の嫉妬って恐いよな…」


エドワードがそう言ってロイを見ると、ロイは意地の悪い笑みを浮かべてエドワードの耳元で囁いた


「女の嫉妬も恐いが、男の嫉妬だって恐いんだが?」


「…馬鹿///」


エドワードが赤くなっているとキスと共にゆっくりとソファーに押し倒された


「何やってんだよ、傷が開いちまうだろうが」


「君が動いてくれれば大丈夫だよ」


「…はぁ。中尉に怒られても知らねぇぞ?」


「うっ、それはちょっと困るな…」


「ぷっ、まぁそん時は俺も一緒に謝ってやるよ」





その後2人してリザに怒られたのは言うまでもない――‥







            fin.




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