鋼の錬金術師(ロイ×エド)
君の為に出来ること

「鋼の」


自分を呼ぶ大佐の声が緊張しているように聞こえたのは気のせいだろうか


「何だよ?」





「好きだ」





「………は?」


一瞬自分の耳を疑った


「笑えねー冗談やめろって、、、」


「冗談ではない」


「アンタ、この暑さで頭おかしくなった?それとも罰ゲームか何かかよ」


「私はいたって本気だよ。鋼の、君が好きだ」


そのままロイはエドワードにキスをした


「!?」


ロイの舌が口の中に入ってきて、エドワードはビクンと身体を強張らせた


「…っ…ふ、ふざけんなっ!!」


一瞬の隙をついてエドワードは思いきりロイを突き飛ばす


その瞳には驚きと悔しさで涙が滲んでおり、エドワードはそのまま執務室を飛び出していった







気持ちを伝えればこの関係が壊れてしまう事ぐらい分かっていた


だから今までこの気持ちを押し殺して君と接してきた


しかし、それももう限界だった


その髪に、頬に、唇に、何度触れたいと思ったことか――‥


きっと君は私を軽蔑しただろう…


だが私は後悔はしていない


触れた唇は少し乾いていて、けれどとても甘かったな、とロイは自嘲気味に笑った







「後見人を変えてくれ」


翌日、エドワードからの申し出にロイはやはりな、と思う


「…分かった。すまなかったな、鋼の」


エドワードは黙って執務室を出て行った


(ああ、終わりはこんなにも呆気ないものなのか…)


後には胸にポッカリと穴が開いたような孤独感だけが残った







「グラマン中将、実は折り入ってお話が…」


ロイはその日の内にグラマンの元ヘ行き、エドワードの後見人になってくれるよう、そして今まで通り旅を続けられるよう頼んだ


「いいよ、君の頼みなら仕方ない。それにワシも彼のことは気に入っておってね」


グラマンは詳しく詮索せずロイの頼みを快く引き受けてくれた


グラマンなら彼を利用したり、彼に不利になるような事はしないと言える


「鋼のをよろしくお願いします」







「鋼の、君の後見人の件だが、グラマン中将が引き受けてくれた。今まで通り旅も続けて構わないし資料の閲覧も中将に許可をもらえばいい」


「じゃ、これでアンタとはおさらばってわけだ。アンタも良かったんじゃねぇか?こんな子供の面倒見なくて済むんだから」


あくまでも事務的なロイの言い方に腹が立ったエドワードは投げやりに言った


「そうだな」


しかし言葉とは反対にロイの表情は苦いものだった







後見人がグラマンに変わってからはロイとも顔を合わせることは無かった


顔を合わせる度に言っていた嫌味の一つも言えないのは少し寂しくもあったが…


そんな折、グラマンからロイの元へ書類を持って行ってほしいと頼まれた


あまり引き受けたくは無かったが上官の頼みとあっては聞かない訳にいかない


エドワードは渋々書類を持ってロイの執務室へ向かった







コンコン――‥


「入れ」


エドワードが中に入ると、ロイは机に向かって黙々と仕事をしておりこちらを見ようともしない


おそらくホークアイやハボックあたりが報告に来たとでも思っているのだろう


遠目でもあまり顔色が良くないのが分かった


(どうせコイツのことだから、またサボってたんだろ…)


「あのさ…」


エドワードが声をかけるとロイは弾かれたように顔を上げた


「鋼の…久しぶりだな、元気だったか?」


「見りゃ分かんだろ」


「ハハ、相変わらずだね。いや、ノックをするようになっただけマシか。グラマン中将にでもしつけられたかね?」


「そんなんじゃねぇよ…」


そんなんじゃない。ただ前みたいに何の気兼ねもなく入れなくなった…
入っちゃいけない気がしたんだ


「私に遠慮なんかしなくてもいいんだよ」


俺の考えを見透かしたように大佐が言う


「別にそういう訳じゃ…。それよりこれ、グラマン中将から」


「ああ。グラマン中将とは上手くやっているかね?」


エドワードから書類を受け取りながらロイが聞いた


「当然だろ、どっかの誰かさんみたいに嫌味も言わねぇしな」


「そうか、良かったな」


そう呟いた大佐の顔が少しだけ寂しそうに見えた――‥


「んじゃ、俺もう行くから」


「グラマン中将にあまり迷惑を掛けるなよ」


背後から聞こえた台詞にエドワードはムカッとして扉を勢いよくバタンと閉めた







エドワードの姿に苦笑するとロイは再び机に向かう


エドワードが持ってきた書類に目を通し、サインをすると席を立った


フラッ――‥


「…っ」


このところの度重なる仕事などで疲れていたロイは軽い目眩に襲われた


それを机に手を着いてやり過ごす


一つ大きく息をつくと書類を手に執務室を出た







別の書類に目を通しながら歩いていたロイだったが、階段に差し掛かった辺りでその視界が不意にぐらりと歪み意識を失った


支えを失った身体はそのまま階段を転がり落ち、ロイは廊下に投げ出された







グラマンの部屋にいたエドワードは外が騒がしいのに気付き廊下に出た


そのまま人が集まってる階段の方へ歩いて行って愕然とする


「大佐!?」


そこにいたのは頭から血を流してぐったりとしているロイの姿だった


「おい、大佐!しっかりしろ!」


「いけません!動かしては駄目です」


側にいた人がエドワードの肩を掴む


「…っ」


そこでエドワードは床に落ちていた書類に自分の名前が書かれているのに気が付き、それを拾い上げる


「任務報告書?何だよ、コレ…」


そこには脱走兵の始末や極秘研究所の破壊など、エドワードの知らない任務内容がエドワードの名前で書かれていた


エドワードはその書類を持ってグラマンの元へ向かう







「グラマン中将…」


「おや?どうしたのかね、浮かない顔で」


「大佐が…階段から落ちて大怪我したんだ…」


エドワードはそう言って俯いた


「さっき大佐の所へ行った時、大佐疲れた顔してた…なあ、グラマン中将、コレ何だよ?」


エドワードの真っすぐな目にグラマンは観念したかの様に大きく息をついた


「彼には口止めされていたんだけどね…マスタング大佐からワシに後見人が変わったのをいいことに、中央の連中は君にこういった任務を回してきた。ワシが止められるものは止めていたが、どうしても断れないものはマスタング大佐が代わりに引き受けていたんだよ」


「何で…もう大佐は俺の後見人じゃないのに…」


「彼は君のことを本当に大切に思っていたみたいだったからの」


しばらくの沈黙の後、エドワードが口を開いた


「…グラマン中将、俺…」


「分かっておるよ。行ってあげなさい」


「はい、ありがとうございました」


エドワードはグラマンにお辞儀をして部屋を出ていった







カチャッ――‥


ベッドに横たわって眠っているロイの頭には真っ白な包帯が巻かれていて痛々しかった


「大佐…」


「鋼の…?」


「…っ、起きてたのかよ」


「さっき目が覚めてね…」


「痛むか?」


エドワードが包帯にそっと触れる


「大丈夫だ、心配をかけてすまなかったな」


「なぁ、大佐…」


「何だ?」


しかしエドワードは黙ったまま何も言わない


「どうした?鋼の」


「俺…やっぱり後見人はアンタがいい」


エドワードの言葉にロイは一瞬驚くが、すぐにその瞳は優しく細められる


「グラマン中将に何を言われたか知らないが、私に遠慮しなくてもいいんだよ」


エドワードはそれに黙って首を振る


「俺、今はアンタのことそういう対象には見れないけど…でも、アンタが俺のことを大切に思ってくれてるのと同じ様に、俺にとってもアンタは大切な人なんだ」


それに、嫌味を言う相手がいなくなるのもつまらねぇしな、と照れ臭そうに笑った


「そうか…ありがとう、鋼の」


「何、礼なんか言ってやがる、これからも沢山迷惑かけてやるから覚悟しとけ!」


「それは勘弁してくれ…」


しかしそう言ったロイの顔は嬉しそうだった――‥





            fin.




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