蛇足 4 そうだ、コイツはこんな奴だった、楓は内心苦笑しながら思った。 全てにおいて小学生レベル。 そう、彦星は馬鹿なのだ。 始めはその馬鹿さにイライラする事もあった。 (いや…今でもたまにイライラはするが) しかし、そんな彦星を楓はやはり嫌いではなかった。 家族から見捨てられているようなこんな現状を、そこまで悲観せずにいれるのは確かに彦星の影響が大きかった。 楓はこの彦星の馬鹿さに救われているのだ。 「彦星。お前は俺の友達第一号だろ?それに俺の大親友は彦星と蛭池君だけだよ。」 「……………!」 みるみるうちに彦星の不機嫌な顔が満面の笑みに変わっていく。 あぁ、単純。 もう尊敬に値するな、ここまでくると。 「おぅ!俺の大親友も楓と池ちゃんだけだ!」 「じゃあさ…、俺の友達は彦星の友達だろ?だって俺達大親友なんだからさ。」 楓は意識的に大親友は強調しながら言った。 「んーーー。うん。大親友の友達は友達だな!」 「そうだよ。大親友の友達ならその友達も、もちろん友達だな?」 「な!」 「じゃあ、よしお君は俺の友達だから、俺の大親友の彦星はよしお君とも友達だよな?」 「おぅ!楓の友達ならもちろん俺の友達だ!だって俺ら大親友だからな!」 よし、成功! 俺……スッゴイ頑張った。やり遂げた。 これで彦星もよしお君を見ても戦闘体制にはならないだろう。 良かった良かった。 楓がホッと胸を撫で下ろすと、隣で彦星が「そーいえば!」と声を上げてきた。 「楓は職員室に何か用があったのか!?」 「え、俺?俺は先生にバイ……」 バイトの許可証を貰いに と言いかけて楓は口をつぐんだ。 バイトを捜している事がバレたら、きっと彦星は自分のバイト先を紹介しようとしてくるだろう。 というか一番最初に紹介しようとしてきたし。 楓にとって、それは避けたい事態であった。 いくら彦星と仲良くなったって、こんな男と学校でも私生活でも、果てはバイト先まで一緒とは考えるだけで疲労困憊だ。 ただでさえ暇さえあれば楓に金魚のフンの彦星。 「(俺だってたまには一人の空間が欲しいわ!)」 楓はそう思うと笑顔で、ちょっと用事があっただけ、と曖昧に返事を濁した。 「ふーん」 あ、その目は何か納得してないな。 全く、彦星。 人間関係ある程度の距離感が大切なんだぞ? [*前へ][次へ#] [戻る] |