蛇足
バカ発見
「………………」
「つーわけで、アイツは俺の誘いを断りやがったんだよ……お前のせいでな」
イライラを抑えるように、楓を睨み付けていた男の言葉に、楓はクラリと意識が遠のいた。
話はわかった。
この、自分を取り巻くわけのわからない状況は、きっと彦星のせいであろうと楓は考えていた。
そうしたら、案の定彦星のせいだった。
目の前のこの男の名前は、
道本 道明
(どうほん みちあき)
蔦屋学園のまとめ上げる、蔦屋のリーダー的存在だという。
聞けば、昨日彦星を呼び出したのも彦星に新入生をまとめ上げさせ、1年全体を蔦屋のチームの傘下へと加える為だったらしい。
それを彦星は……断った。
しかも「楓と居る時間が減るから」という理由で。
そこで、道明達3年は彦星の口から出た「楓」という人物が、彦星を使い1年をまとめ上げ、自分達に敵対してくるのでは、と危惧したようだ。
なんて迷惑な勘違いなんだろう。
楓は小さく溜め息をつくと、道明におずおずと口を開いた。
「あの……、俺はそんな先輩方と敵対しようなんて思ってませんし、思っても出来るわけないと思うんですけど……」
「テメェには無理だろーが、堀田には出来んだろ」
「確かに彦星になら出来るかもしれませんけど………俺、正直に言いますけど1年生をまとめても俺には何のメリットもないんで、そんな事絶対にしません」
そう、自分はただ平和に平凡に、この蔦屋学園で3年間過ごし、卒業するのが目標なのだ。
蔦屋をまとめ上げ頂点に君臨するなんて面倒な事、
絶対しない。
「(だから早く帰してくれ……)」
楓は切に願いながら道明の鋭い目を受け止めた。
しかし、そんな楓の想いも虚しく、道明の目に映る疑惑の色は更に色を濃くした。
「………信用できねぇな。今お前ら1年を野放しにして、2年と手を組むなんて事になったらめんどうだからな」
「……はぁ、もう…だったら、どうやったら信用して貰えるんですか?」
楓が疲れたようにそう呟くと、その瞬間、今まで不機嫌一色だった道明の目が一気に明るいものへと変貌した。
「んなもん決まってんだろ?堀田彦星を……俺達のチームに入らせりゃいーんだよ。この、生徒会執行部にな」
「………は?」
「わかんだろ?言ってる意味」
「いや、あの生徒会って……?」
「はぁ?んなの俺達のチーム名に決まってんだろうが。かっけーだろ」
そう言って誇らしげな顔をする道明に、楓は
「(あぁ、この……バカなんだ)」
そう心底思ったのだった。
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