蛇足
俺の者はお前の者
ムッツリという呼び名が掠れてきた頃、楓の中に激しい危機感が訪れていた。
毎月の仕送りが、段々と減ってきている。
仕送りされるお金の中から授業料を払っている楓だが、最近その仕送り金額が授業料ギリギリになってきつつあるのだ。
携帯解約の一件もあるし、ひょっとすれば仕送りストップの可能性がある。
いや、今は可能性でもいずれはそれが現実になるだろう。
送られてくる仕送りが徐々に減ってるというのがいい例だ。
むしろそうやって徐々に減らす事で、いずれは仕送りをなくすという事を暗に伝えているのかもしれない。
それにしても、まさか蔦谷に入学しただけでこんな仕打ちを受けるとは露程にも考えていなかったが、ここに通うと覚悟を決めたからには3年間それを通すつもりだ。
その為にはまず
「バイトの許可証?」
楓の言葉に教務主任は眉を顰めていた。
「はい、俺バイトしたいんで」
「あー…そう、うん。じゃあちょっと待っててくれるかな」
「はい」
面倒くさそうに教務主任は立ち上がり、色んな書類が山積みされているところを漁り始めた。
普通そういう許可証なんかはちゃんと目の届く場所に保管されているものじゃないだろうか、と突っ込みかけたがやめた。
此処では常識人は非常識人なのだから。
暫くして、教務主任がくしゃくしゃの紙を持ってきた。
「えーと…これに氏名記入と…判押してきて」
「わかりました」
紙を受け取りまたそれを綺麗に延ばす楓を、教務主任は何とも言えない顔で見つめる。
「長い事此処で教師やってるけど、許可証貰いに来た子は君が初めてだよ」
「でしょうね。でも一応校則にありますから」
「……校則、ね」
そんなもんあったなぁと教師らしからぬ事を言う教務主任に一礼して、楓は職員室を出た。
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