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蛇足

「(わかったぜ、楓。お前は………)」


蛭池はフッと緊張の糸が解けたような様子で一呼吸おくと、正解を見つけた子供のような目でキラキラとこちらを見つめる楓に視線を移した。


「(恋愛経験は……限りなくゼロなんだな……)」

蛭池はそう思うと、サングラスの奥から楓を遠い目で見つめる。

蛭池が黙ったままである事を、楓は肯定と受け取ったのか「そうだよな」と1人納得したように頷いた。

「親からの愛情って凄く大事だもんな。俺も最近そういうの凄く感じるから彦星の気持ち、よくわかる。人肌が恋しいんだよな彦星は」

「………そうだな」

あぁ、わかった。

やっとわかった。


親の愛情について、何やら熱く語り始めた楓に蛭池は三木楓という人物を改めて垣間見た気がした。


楓は頭がいい。

頭がいい故に全ての物事に難しい理由を追求してしまう。

加えて今の様子からすると、きっと楓は恋愛経験はほとんどないのだろう。

そのため、あそこまでわかりやすい彦星の気持ちにも一切気付いていない。

ハッキリ言って鈍感なのだ。

鈍感で

頭でっかちで

だけど面倒見のいいお兄ちゃん気質な男。

それが三木楓という人物の根本だ。


いつも大人びて冷静に物事を見ているような楓だが、一皮剥けばそんなモノだろう。

頭が良くても15歳。

高校1年生だ。



「(まぁ、俺も人の事偉そうに言えたたまじゃねぇんだがな)」

蛭池が内心苦笑していると、楓の熱弁も終了に近付いているようであった。

「……というわけで愛情は大切だよね、蛭池君!」

「あぁ、そうだな」


蛭池が頷くと楓はにこりと笑顔になった。

それはまるで正解を見つけられて誉められた事を喜ぶような……そんな小学生のような笑顔だった。



初めて恋をした彦星。

それに対して酷く鈍感な楓。



この二人なかなかに


「(面白れぇな)」

蛭池はニヤリと口元に薄く笑みを浮かべるとイチゴミルクに手をかけた。

だがその時、楓は先程の笑顔を浮かべたまま嬉しそうに言葉を続けた。


「だから、そんなに彦星が愛情に飢えてるなら、俺は出来る限りそれに応えてやろうと思うんだ。彦星には俺もなかなか助けられてるしね」

蛭池君もそう思うだろ?

楓が笑顔でそう蛭池に尋ねた瞬間


ぐしゃり

蛭池は思わず手をかけたイチゴミルクを潰してしまった。

突然の蛭池の奇行に楓は目を丸くする。

そんな楓に蛭池は潰れて中身の零れたイチゴミルクを手に必死の形相で楓を見つめた。

楓からは全く蛭池の目は見えないのだが。

「……楓、あんまり応え過ぎねぇようにな」

「へ?」

「……愛情にだよ」


じゃねぇと




食われるぞ、楓。


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あきゅろす。
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