蛇足
3
「さぁ、俺にはどうもわからねぇな」
選択肢3
曖昧に答える
蛭池は真剣な顔で見つめてくる楓に、どちらとも言えぬような言葉で質問に答えた。
幸い、楓からはサングラスのせいで蛭池の表情を読む事はできない。
故に、楓は蛭池の目が終始焦りに彩られている事など知る由もなかった。
余計な事を言って、楓が彦星の気持ちに気付いてしまうのは楓の気持ち的にまだアウトだ。
しかし、たがらといって完全に先程の質問を否定してしまっては、せっかくの彦星の楓へのアピールを水の泡になってしまう。
さすがにそれは蛭池とて気が引ける。
「(ここは余計な事は言わないのが一番だな)」
蛭池の中の恋シュミ攻略本はそう結論付けた。
蛭池が曖昧な言葉で話を濁すと、楓は更に困ったような顔で蛭池を見てきた。
「そっか……蛭池君がわかんないなら仕方ないね。でも……」
でも、そう呟く楓の顔はどことなく思いつめたような表情であった。
「でも、何だ?」
「やっぱり俺、最近の彦星の行動は……ちょっと度が過ぎてるような気がして……だから俺なりに何でなのかなって考えてみたんだよ」
ゴクリ。
蛭池はとっさに唾を飲み込んだ。
そして、蛭池にはその音がやたらと大きく感じられた。
ヤバい。
これは非常にヤバい。
楓は確実に気付いてしまっている。
蛭池はサングラスの奥の瞳に焦りを写しながら楓を見つめた。
「あのさ、蛭池君。もしかして彦星って
親から疎まれてない?」
「は?」
蛭池はとっさに抜けたような声を上げた。
何故楓はいきなりそのような事を言ってきたのか、蛭池にはさっぱり理解できなかった。
「……なんだって?」
「だから、彦星は実家に居た時……御両親から……こう……ね?疎まれるというか面倒がられてたというか。……そういうのなかった?」
「………何でそう思うんだ?」
蛭池は楓の真剣な目に、眉を寄せながら尋ねる。
未だ楓は正座をしたままだ。
「あの……なんか彦星ってかなり人にくっつきたがるところがあるよね?あれって……きっと愛情に飢えてるからだと思うんだ!」
「……あ、あぁ」
いきなり力説し始めた楓に蛭池は、意味がわからないままとりあえず頷いてみる。
「それで俺は思ったんだ。彦星は多分小さい頃からあんまり両親からの愛情を受けれなかったんじゃないかって。それでここにきて幼少時代から積み重なった寂しさがここにきて爆発したんだと思うんだよ!それで、彦星は、なんでかはわからないけど俺にくっつく事で人の温もりを感じたいんだ!ねぇ?!そう思わない?蛭池君!」
正解だよね、先生。
楓の向けてくる、その目はひたすらそのような気持ちが滲み出ていた。
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