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蛇足

「……行く」

楓の小さく呟かれ言葉によしおは顔が赤くなりながらもしっかりと楓を見つめた。

「………それはお前の答えか?」

そう問いかけたよしおに楓は力強く頷いた。

「俺……よしお君と一緒にバイトがしたいんだ」

楓のその言葉によしおはカバッと楓から目を逸らした。

顔が、体が、全てが熱くて仕方がない。

その状況に耐えかねたよしおが「詳しくはまた連絡する」と言ってその場を立ち去ろうとした瞬間ガシリと手を掴まれた。

言わずもがなよしおの手を掴むその手は楓のものだ。

ひんやりした楓の手が火照る手にじんわりと染み込む。

「よしお君」

「……んだよ」

よしおが楓の顔を見ずに返事をすると、楓はよしおの手を掴んだまま優しい声で言葉をはなった。

「ありがとう……俺よしお君と友達になれて良かった」

その言葉によしおが目を見開く。

そしてゆっくり離された楓の手によしおはそのまま歩き去って行った。

だが離れる間際、楓には確かに聞こえた。

『俺も』

そう呟いたよしおの小さな声を。




よしおは廊下を歩きながらバクバクとせわしなく動く自分の心臓を落ち着かせようとポケットからケータイを取り出した。

窓から吹き込んでくる風が火照った体に吹き込み、すごく気持ちがいい。

よしおは窓の前で立ち止まると風に当たりながらケータイをいじる。

「(あいつと一緒にバイト………か)」

その事実に妙なくすぐったさを感じながらよしおは目を細めて窓の外を見渡す。

治安の悪いこの地域。

楓が彦星の下でバイトをしないなら、せめて自分のもとでバイトをさせたかった。

そうよしお自身が望んだ。

あのやたら自分の事を『良い奴』と称する、TSUTAYA学園には異色な普通の生徒。

最悪の出会いにも関わらず、自分を助け友達になろうと言ってきた楓。

何故楓のような普通の生徒がこんな荒れた学校に来たのかはわからない。

だが、楓は今TSUTAYA学園に居て、自分と友達になった。

そして自分はもっと楓と共に居たいと思った。

「(今度は……俺が守る)」


そうしてよしおはケータイをかけ始めた。

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