蛇足 2 楓が手紙を開くと、そこには懐かしい母親の字が達筆な筆使いで書かれていた。 しかし、その達筆さが逆に今の楓にはよそよそしく他人行儀な感じを与える。 久々の家族からの手紙。 なのにそこに書かれていたのは、楓を心配する言葉や叱咤激励する言葉は一つも書かれていなかった。 ただそこに書かれていたのは事務的な言葉で書かれた報告書のような内容だけ。 そしてその内容というのもおおよそ親が子供に宛てた手紙とは思えないモノであった。 「……嘘だろ」 楓はそう呟くと何度もその手紙を読み直した。 内容はこうだ。 1、楓がTSUTAYA学園という私立に通う事や、下宿する事で思いのほか出費がかさんでいるという事。 2、それ故にこれからは毎月お金を振り込む形式を取るのは止めるという事。 3、その代わり今まで自分達が楓の進学の為に貯金していたお金を一気に振り込んだという事。 パッと聞いた感じ、それは月々の分割振り込みが一括振り込みに変わるだけで何の問題も無いように感じられる。 しかし、そこには大きな問題があった。 楓の進学のために貯めていたお金。 それは勿論両親が楓を紀伊國屋高校に行かせる為に貯めたお金だ。 決して蔦屋(TSUTAYA)学園などに行かせるためのお金ではない。 そう、問題はそこにあるのだ。 楓が行くはずだった紀伊國屋高校の正式名称は 都立紀伊国屋高等学校 すなわち東京都が建てた高校だ。 しかし蔦屋(TSUTAYA)学園はどうだ。 私立蔦屋学園高等学校 私立なのだ。 この時点で私立と都立。 どちらが学費がかさむかなど誰だってわかるだろう。 しかもその貯金の中には勿論玉泉院の下宿代など含まれていない。 紀伊国屋には自宅から通う予定だったのだから。 それら学費の差額と下宿代。 しかも3年間。 楓は脳内で一気に計算して愕然とした。 「(いやいやいや……軽く100万は足りないじゃん……)」 これはかなり大きな問題だ。 楓が高校生活を続行させる事の是非に関わる。 楓は決心してTSUTAYA学園に来たのだ。 今更金銭的な問題で学校を自主退学など死んでもごめんだ。 行くと決めたからには3年間貫き通す。 そこは楓の意地であった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |