蛇足
懇願
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「よしえさーん、これどこに置いたらいいですか?」
よしきの部屋から無事帰還した楓は、働く事が出来なかった30分を取り返すかのように店中を走り回っていた。
「あぁ、それはそのままでいいわぁ。それより楓ちゃん?」
よしえは微笑みながらそう言うと、笑顔を浮かべたまま楓の元に走り寄って行った。
「さっきまでよしちゃんのお部屋で何をしてたの?お母さん気になるわぁ」
「えぇ……?そんな……大したことじゃありませんよ」
高校入試用の問題を30分間解いてましたとは、さすがに言いづらいため、楓は顔を逸らし言葉を濁した。
「ずるいわぁ。教えてくれてもいいじゃないのー。楓ちゃんはケチねぇ」
「ケチって言われても……本当にそんな大した事は……「母さん!」
楓がのんびりと詰め寄って来るよしえに困り果てていると、突然店内に大きな声が響き渡った。
「……よしき君……」
楓は突然店内に現れたよしきに目を向けた。
よしきが現れた。
と、言う事は先程解いた問題が間違っていたのだろうか。
自分的には全問正解だと思っていたのに。
よしきの手にしっかりと握りしめられた答案用紙の存在に、楓は深くため息をついた。
「どうしたの?よしちゃん」
「あの……さ」
よしきは言いにくそうによしえに近付くと、ふと隣に立っていた楓に目を移した。
そんなよしきに楓はピクリと肩を揺らす。
「よしき君……それ、どこがまちがって」
「あのさ……母さん」
無視された。
すぐに楓の方から目を離しよしえに向かって言葉を続けたよしきに、楓は目を瞬かせた。
「(問題が……間違ってたんじゃないのか?)」
だったらよしきは何の為に、楓が解いた答案用紙を持って此処に現れたのだろうか。
楓は渦巻く疑問の中よしきを見つめていると、よしきは意を決したような表情でよしえに向き直った。
「母さんに一つだけ頼みたい事があって……」
「なぁに?欲しい参考書でもあるの?」
「参考書は……いらない」
「じゃあ……何かしら?お母さんに出来る事なら何だってやるわよ?」
よしえの優しい笑顔によしきはごくりと喉をならし、いきなり楓の腕を引っ張ると、にこやかな笑みを浮かべるよしえの前に付き出すように前へ押しやった。
「コイツを、俺の家庭教師にしてくれ!」
「は!?」
なんだって。
何の前触れもなく放たれた、その信じがたい言葉に楓は、極限まで目を見開いた。
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