蛇足
柳川兄弟
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よしきは驚いていた。
目の前で繰り広げられる凄まじい速さで繰り出される解答に。
さっき英語を解き始めたと思ったら、今は既に数学、社会と解き終わり理科の解答に取りかかっている。
まさか自棄を起こして適当に書いているのかとも思って問題を覗いてみると、そこには正しい答えが的確に導き出されている。
「(ちょっと……待ってよ)」
よしきは次々に埋まっていく解答欄にゴクリと唾を飲み込むと、サッと壁にかけてある時計に目をやった。
「(まだ解き始めて……20分しか経ってないんだけど…)」
そうこうしているうちに理科の解答も終えた楓は最後の国語の問題へと手を伸ばしている。
ありえない……
「(…この問題集は…こんな速さで解ける問題じゃない)」
何故ならこの問題集は、対紀伊国屋受験者の……しかもほんの上位者にしか渡されない、よしきの通う塾で最も難易度の高い問題集なのだ。
塾で初めてこの問題集を解かされた時、よしきは1ページの正答率が軽く5割を切ってしまった。
しかも充分な時間をかけて解いたにも関わらず、だ。
それを何だ。
この目の前の何の変哲もない、しかも全国でも一、二を争う馬鹿高に通う男は何の苦もなく解いているではないか。
「……ありえない」
よしきが思わず声に出して呟いた瞬間、今までもの凄いスピードで動いていた楓の手がピタリと止まった。
「はい…
終わったよ」
そう言って差し出された5枚のプリントに
「…………」
よしきはただ黙ってプリントを受け取る事しか出来なかった。
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よしきが無言で楓からプリントを受け取っている頃
よしおは…
「(…………カツアゲって……どうやってやったらいいんだ…?)」
よしおは久々のカツアゲという行為に、どうしたらいいかわからなくなっていた。
周りの通行人は全員自分とは目を合わせようとしない。
「(タ……タイミングとかって……えぇと…あぁもう!…くそっ!久々過ぎてマジでわからん!)」
よしおは最高潮に達した苛立ちに、脇にあったガードレールを勢いよく蹴り飛ばした。
その瞬間。
「ひっ」
短い悲鳴がよしおの耳に響いた。
「あ?」
よしおが不機嫌そうな表情のまま声のする方に目をやる。
そこには、顔色悪くよしおを見る学生服を着た少年が一人。
「っう、あ」
重なり合う視線。
固まる体。
怯えたような相手の目。
よしおは睨んだまま怯える相手の目の前まで歩みを進めた。
「おい」
「…っ」
よしおの声に相手の目はより一層怯えの色を濃くする。
今にも逃げ出したくて、叫びたくて仕方がないといった相手の様子によしおは拳を握りしめると小さく口を開いた。
「……金を」
「……ぁ」
「500円」
「………?」
「貸してくれ」
「ご……500円ですか……?」
目を見開きながら尋ねてくる相手に、よしおは頷きながら頭の片隅に浮かぶ小さな疑問に蓋をした。
「(カツアゲって……何だっけ?)」
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