蛇足
2
「何って……紀伊国屋のテストの傾向と対さ「そんなの言われなくても分かってる!」
よしきは勢いよく叫ぶと、楓との距離を一気に縮めた。
そんなよしきに楓は当惑気味に一歩後ろへ下がる。
「ちょっ…いきなりどうしたのさ、よしき君」
「どうしたもこうしたもない!あんた一体何なの!?」
「え?何なのって……そっちが何なのさ!?いきなりわけがわかんないんだけど!!」
よしきの突然の問いに楓が眉を潜めると、よしきは苛立ったように楓の腕をガシリと掴んだ。
「あぁぁ!もう!あんた理解力ゼロ過ぎてイライラするっ!さすが蔦屋だよっ!」
「なっ……!?よしき君さぁ、キミ年上に対する接し方をもう少しあらため「うるさい!ちょっと黙って!」
よしきは楓の腕を掴んだままギロりと楓を睨み付けると考え込むように片方の手を顎に当てた。
その睨んだ瞬間の顔が余りにもよしおに似て凶悪だった為、楓はただ押し黙るしかなかった。
一体何なのだろうか。
押し黙りながら楓は力強く握りしめられた自分の左腕に感じる鈍い痛みに若干表情を歪める。
痛い。
地味に痛い。
しかしよしきはそんな楓に気付く事なく、全く腕から手を離す様子を見せない。
「よしき君……腕、痛いから離してくれないかな……」
楓が腕の痛みに耐えかね、言いづらそうに口を開くと、それまで黙って考え込んでいたよしきがゆっくりと顔を上げた。
「ねぇ、あんたさ……出身中学、どこ?」
「へ?」
余りに脈絡のない質問に楓が目をしばたかせると、よしきの目がスッと細められた。
「俺最初に言ったよね……?時間無駄にするのが一番嫌いだって…ねぇ、一度注意された事は繰り返さないでもらえるかなぁ?」
「ご…、ごめんなさい」
既に楓が年上でることなど一切頭の中にないであろうよしきの態度。
加えて先程までの勢いはどこへ行ってしまったのか、楓は苛つくよしきを前に小さくなるしかなかった。
「はい、いいから出身校言って」
「(…何で俺…年下から尋問受けてんだよ……)」
「早く答える」
「………め、明林中だけど」
「……………」
「………え?よしき君?」
「……………」
楓の答えによしきは一瞬目を大きく見開くと、一切の反応をしなくなってしまった。
「……ねぇ、よしき君…」
余りに無反応なよしきに楓が不審に思い、顔を覗き込もうとした時だった。
「……嘘だ」
「え?」
よしきの大きく見開かれた目に、ゆらりと楓の姿が映し出された。
「嘘だ……絶対に嘘だ!明林て…あんた、レベルわかって言ってんの!?……あんな平均偏差値70強の化け物校…あんたが行けるわけない!」
「いや、そんな事言われても……」
「この俺だって受けたらギリギリって言われたんだぞ!?」
「……いや、本当にそんな事言われても…」
楓が戸惑いながらも再度「明林中出身だ」と強く言い切った瞬間。
楓は掴まれていた左腕に更に力が込めれたのを感じた。
「嘘つけぇぇぇぇ!!!!」
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